世界チャンピオンになるために「すべてを捧げてきた」8.12川浦龍生に挑戦する白石聖

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 12日、後楽園ホールで開催される「ダイヤモンドグローブ」のメインはWBOアジアパシフィック・S・フライ級タイトルマッチ。王者の川浦龍生(三迫/31歳、13勝9KO2敗)が同級10位の白石聖(しらいし・じょう、志成/28歳、12勝6KO1敗1分)を挑戦者に迎え、2度目の防衛戦に臨む。

 2017年の全日本フライ級新人王で、元日本ユース・フライ級王者の白石は2年前の7月、当時は川浦のジムの先輩・中川健太が持っていた同じタイトルに挑戦し、判定で初黒星を喫した。以来、2度目のタイトル挑戦となる。

 「一気にジャンプアップするチャンス。絶対に勝つ」とタイトル以上に白石のモチベーションを掻き立てているのが川浦のWBA3位、WBO5位、IBF8位という3団体の世界ランクだ。「世界チャンピオンになりたくてやっているので」と成り上がりの好機に決意を高めている。

 アマチュア経験のないプロ叩き上げ。藤原俊志トレーナーは「アマ上がりでクセのないサウスポー」と評する王者に対し、「独特のやりにくさを前面に出していきたい」と話す。生まれ故郷の愛媛・新居浜を後にして、大阪の井岡ジムに入門した17歳のときから、世界チャンピオンになるために「すべてを捧げてきた」という挑戦者に聞いた。(取材/構成 船橋真二郎)

※「ダイヤモンドグローブ」の模様は12日18時の第1試合開始からFODでライブ配信される。

川浦に挑戦する白石

■初タイトルより世界ランクが大きい
――2度目のタイトル挑戦になります。どんな気持ちで臨んできましたか。
白石 僕は毎試合、毎試合、懸けちゃうタイプなんですよ。1試合、1試合にすべてを出し切る、ぐらいの気持ちでやってるんで。タイトルマッチだから、というより試合に勝つという感じですね。

――そういう意味ではいつも通りの気持ちで。
白石 はい。ただ、相手は上位の世界ランクを持っていて、一気にジャンプアップするチャンスなんで。まあ、実力的には勝てると思ってますけど、必ず勝つという気持ちが強いのはありますね。

――白石選手の中では初タイトルより世界ランクのほうが大きいと。
白石 ベルトも嬉しいんですけどね。やっぱり、世界ランクが一気に上がるのが嬉しいです。世界チャンピオンになりたくてやっているので。

――前回、中川健太選手に挑戦したときは、ケガをしていたと藤原トレーナーに聞きましたが。
白石 そうなんですよ。試合に万全の状態で臨めることって、なかなかないと思うんで、言う必要もなかったんですけどね。あの試合が終わった後、記事で中川選手がどこか痛めてた、みたいに書かれてましたよね?

――たしか腰でしたか。
白石 勝ったのに言うなよ、と思って。試合にケチがつくじゃないですか。こっちは足を痛めて、ずっと練習できなかったのに。勝って、それを言うのはカッコいいと思わないし、あ、言っちゃうんだと思って。(※実際は思うような試合ができず、意気消沈する中川を慮った三迫貴志会長があえてケガを明かしたもの)

――右足はどういう状態だったんですか。藤原さんはこれでよく試合をしたな、というぐらいだったと。
白石 右足の甲の疲労骨折ですね。踏んだだけですごく痛いんで、歩こうにも歩けないし。実戦(練習)はもちろんトレーニングもだいぶ休んで。だから、自転車(漕ぎのマシーン)で体重を落としましたね。動かないから食べることもできないし。何とか持っていった感じでした。

――体重を落とすためだけに体を動かしたような。
白石 はい。正直、パフォーマンスにも影響したし、結構、頑張った記憶があります。自分でもよくやったなって(笑い)。

――そういう意味では悔いが残る試合ではあった。
白石 まあ、そうですね……。万全でいきたいのはあったんですけど、そうはうまくいかないですからね。で、その前に(現WBO世界フライ級王者で当時世界ランカーのアンソニー・)オラスクアガと決まってたんですよ。

――あ、そうでしたね。4月に韓国でやる予定が、オラスクアガ選手が急きょ代役として(寺地)拳四朗選手に挑戦することになって、試合が中止に。
白石 そうなんですよ。あれにだいぶ懸けて、ずっと練習してきて、直前でなくなっちゃったんで。僕は1試合、1試合にすべてを出し切るぐらい懸けると言ったじゃないですか。かなりメンタルにきて、ほんとはしばらく休みたいぐらいだったんですけどね(笑い)。

中川に挑戦する前の志成ジムの走り込み合宿

■リングに上がるまでが勝負
――昨年末の佐藤(剛=角海老宝石)選手との試合が中川戦以来、1年5ヵ月ぶりでした(判定勝ち)。試合間隔が空きましたが。
白石 足(のケガ)ですね。試合が終わっても痛いし、ムリして(試合を)やった分、治るまで余計に長引いたんで。

――復帰するまではどんな気持ちで?
白石 やりきってないな、と思ってる自分がいました。自分はチャンピオンになれるって、諦めることはなかったです。

――久しぶりの試合はどうでしたか?
白石 楽しかったです。楽しむことを大事にしてるんで。当日は。

――試合当日は、ということですね。
白石 はい。当日以外、楽しいと思ったことがないですね。まあ、楽しいと思って、ボクシングを始めてないですけど。毎日、毎日、苦しい思いをして、どこで楽しむんだと考えたら、当日ぐらいは楽しもうと思って。

――ということは、以前は当日も過度に自分を追い込んでいた。
白石 そういうタイプでしたね。そうじゃないとあそこに上がれないというか。今は少しうまくやれてはいますね。まあ、勝負に懸けて、追い込んじゃう自分もいるんですけど、バランスは取れてきたと思います。

――復帰戦では、そのバランスをうまく取れた。
白石 そうですね。楽しめました。

――そういう感覚もつかんできて、次ということですね。試合間隔は空きますが、3戦続けてサウスポーが相手になりますね。
白石 たしかに。でも、(準備)期間があれば、どちらでも気にならないですね。

――では、チャンピオンの川浦選手には、どんな印象を持っていますか。
白石 しっかりは見てないんですけど、待ち、待ちのカウンターの選手ですよね。ストレート系中心の。

――そういう相手に対して、意識してきたことは?
白石 自分の底上げですね。アマチュアでやってない分、まだまだ可能性があると思ってるんで。全部をレベルアップさせる感じで。

――志成ジムに来て、3年になりますか。
白石 そうですね。3年とちょっと。

――いろいろな視点があると思いますが、藤原トレーナーと一緒にやることで何か変わったことはありますか。
白石 どうですかね……。まあ、僕は自分で考えてやるタイプで、こうしてほしいと言って、やってもらう感じなんで。逆に言われるタイプは合わないんですよ。それを藤原さんも分かってくれて。

――白石選手のやり方を尊重してくれていると。
白石 そうですね。まあ、4回戦からの叩き上げで、最初の頃はガムシャラにやってきたんですけどね。ただ頑張るってだけじゃ、やっぱり限界があるし、それだけじゃ勝てないって、いろいろ考えながらやるようになりました。自分の頑張り方で、納得できるようにやろうと思って。

――当日の気持ちの持ちようとか、いろいろ変化して、ここまで来たんですね。
白石 はい。とにかく気持ちだっていう感じからはだいぶ(笑い)。

――気持ちだけではなくなってきた。
白石 でも、そこは負けない部分ですけどね。どこが相手より上回っているかと言われたら、対峙しないと分からないけど、分かるのは気持ちだけは絶対に負けないことです。相手が誰だろうと、世界チャンピオンだろうと。そこがキツいと思ったら、辞めるときだと思ってるんで。

――ボクシングの面では、藤原さんは叩き上げだからこその独特のやりにくさがあると。
白石 あ、言われます。自分ではよく分からないんですけど(笑い)。

――それは逆に対峙しないと相手は分からないことですよね。
白石 はい。スパーした相手によく言われるんで。やりにくいなって。

――そこを藤原さんは前面に出したいと。
白石 なるほど。自然と生きればいいですね。

――では、白石選手自身が考える勝負のポイントは?
白石 どの相手も実際に対峙しないと分からないところがあるんで。ということは総合力ですよね。その場、その場で対応できるか。

――そういう意味でも自分の底上げに集中して、すべて上げておくと。
白石 はい。ここがすべてなんで。1日1日の練習が。リングに上がるまでが勝負だと思ってますね。

サンドバッグを打つ白石(左は藤原トレーナー)

■心をすり減らす日々が報われるまで
――ボクシングを始めたのはいくつですか。
白石 17じゃないかな。遅いんですよ。

――では、愛媛から大阪に行って、井岡ジムで始めた。
白石 そうです。小さい頃に空手をやってたんですけど、そこからヤンチャして、高校にも行かないでフラフラしてて。

――ずっと地元で。
白石 はい。バイクに乗ったり、絵に描いたような(笑い)。でも、このまま地元にいて、この生活を続けるのはカッコ悪いなと思って。

――なぜ、ボクシングを?
白石 何ですかね? パッと出てこないんですよ。いろいろです。漫画とか。『あしたのジョー』だったり。『ろくでなしBLUES』が教科書だったし。

――誰かの試合を見て、というのは?
白石 あ、見てました。その頃は長谷川(穂積)さんとか、(井岡)一翔くんとか。でも、特に誰というのはなかったですね。

――それでは、井岡ジムに行ったのは?
白石 大阪帝拳に行こうと思ってたんですよ。辰吉(丈一郎)さんのことも知ってたんで。で、1週間の予定で大阪に行って、最初に大阪帝拳に行ったら京口(紘人)選手のお兄さんの京口竜人さんがいて、かわいがってくれたんで。2、3日いたんですけどね。でも、(滞在の)残りが3日ぐらいあったんで、井岡ジムに行ったら、活気がすごくて。

――チャンピオンクラスが大勢いて。
白石 はい。一翔くん、宮崎(亮)さんは世界チャンピオンで、中谷(正義)さん、石田(匠)さん、ほんとにジムの活気がすごくて。ここだ! と思って、その日に決めました。

――世界チャンピオンになるために。
白石 そうです。入ったときは素人みたいなもんなんで、めっちゃ弱かったですけどね。だから、このすごい人たちを超えないと届かないんだと思って、人一倍、練習しました。

――基準になる人が身近にたくさんいたから。
白石 間違いないですね。その頃は気持ちで頑張ればなれると思ってたんで、すべてを捧げてきました。倍以上、練習して。毎日、気持ちで乗り切ってたんで、マジで心がすり減りました。それは今もですけどね。でも、センスがあるから始めたわけでも、好きだから、楽しいからやってるわけでもないんで。

――コロナ禍の影響とか、いろいろあったと思うんですけど、2019年12月に日本ユースタイトルを獲ってから、約3年のブランクがあって、2022年に志成ジムに移籍したのは?
白石 コロナもあって、気持ちも落ちてましたし、自分も頭打ちだったんで、環境を変えるのもありだなと思って。で、東京でやろうと決めました。

――この11月で29歳になります。
白石 そうですね。(2016年5月に)プロになって、10年目ぐらいですか。だいぶ捧げてきましたね。これ(ボクシング)をやってると心がすり減って、自分が自分じゃなくなる感じになるのが嫌なんですけど。それでもやめないのは世界チャンピオンになりたいからですね。

――そうなったら、すべて報われると。
白石 報われると思ってます。なったら、辞めてもいいぐらいに思ってるんで。すごいことですよね。今は小さい頃から始めて、アマチュアでやってた人が世界チャンピオンになる時代で、僕みたいな叩き上げがなったら。

――そこに近づくためにも次のタイトルマッチは大事ですね。
白石 大事ですね。必ず勝ちます。ここに懸けてるんで。

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