プロ6戦目で永田丈晶に挑戦の野上翔 8.12「世界に行くための通過点」

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 12日、後楽園ホール開催の「ダイヤモンドグローブ」のセミファイナルはアマチュア出身のサウスポー同士による日本フライ級タイトルマッチ。王者の永田丈晶(協栄/27歳、8勝2敗)が6戦目で戴冠を狙う同級1位の野上翔(RK蒲田/24歳、5勝3KO無敗)を挑戦者に迎え、初防衛戦に臨む。

 「自信しかない」。これがタイトル初挑戦となる野上はきっぱり口にする。さらに「ここは世界に行くための通過点。次に行くために必ず勝つだけ。このタイトルに特別な思い入れはない」。さらりと言ってのけるのだ。

 小学3年生からボクシングを始め、プロのU-15全国大会、アマチュアの全日本アンダージュニア王座決定戦で優勝経験もある。佐賀・杵島商業高(現・白石高)1年から全国大会の常連で、最高成績は選抜準優勝。拓殖大では主将も務めた。テクニックと駆け引きに自信を持つ。

 柴田大地トレーナーは野上を「スタイルはアマチュアで、メンタルはプロ向き」と評する。気持ちの強さはよさでもあり、裏目に出ることもあると試合のポイントのひとつに「気持ちのコントロール」を挙げる。「距離を取っても、打ち合っても、どちらでも負けないように」と入念に準備を進めてきた。

 「自分はまだ無名。こいつのボクシング、面白いなと思わせるような技術をたくさん見せて、しっかり覚えて帰ってもらえるように」と野上。試合翌日は25歳の誕生日で、試合の日を「前夜祭」と位置づける。“野上翔”を存分にアピールし、「自分の日」にするつもりだ。(取材/構成 船橋真二郎)

※「ダイヤモンドグローブ」の模様は12日18時の第1試合開始からFODでライブ配信される。

野上(左)と柴田トレーナー

■「自信しかない」
――プロ3戦目で日本ユース(フライ級タイトル)を獲って、今回が6戦目で日本タイトル挑戦です。初のメジャータイトルに向けての気持ちは?
野上 まあ、日本タイトルというより、獲らないことには日本で世界(挑戦)ができないというルールがあるんで。それ以外、特別な気持ちはないし、勝つことしか考えてないです。

――日本タイトル、日本一の称号よりも。
野上 自分は世界に行きたいんで。ここは世界に行くための通過点ですね。次に行くために必ず勝つだけです。

――日本、アジアのタイトルには興味はない。
野上 まったく興味がないわけではないですけど、一番ほしいのは世界なんで、このタイトルに特別な思い入れはないです。

――通過点であり、国内で世界挑戦する条件を整えるため。
野上 そんな感じです。

――4月の永田選手と山内(涼太=角海老宝石)選手の王座決定戦は確か会場で柳光(和博)会長と見ていましたよね。チャンピオンの印象は?
野上 まあ、怖さはないというか……。ガードが堅くて、スタミナはすごいと思いますけど、自分もスタミナはないわけじゃないし。印象という印象は。

――特に気をつけるところ、試合のポイントは?
野上 気をつけるのは自分が調子に乗らないことです。パンチが当たるからとグイグイ前に行き過ぎないように。打たせて、疲れさせて、ぐちゃぐちゃな展開にして、ポイントを取るのが、あっちの作戦だと思うんで。

――相手の土俵で戦って、相手の手数、テンポに巻き込まれるのが、一番ダメな展開ですよね。
野上 一番ダメですね。接近戦に持ち込みたいと思うんで。それに乗らないように。

――野上選手は強気で、そこがいいところでもあるんだけど、うまく気持ちをコントロールして戦えればと柴田トレーナーが。
野上 そうですね。逆に自分の気持ちをコントロールできたら、問題ないんで。応援してくれてる人たちはKOを見たいかもしれないですけど、倒そう、倒そうになると空回りするんで。行かないことも作戦のひとつというか。確実に勝つのが前提で、10ラウンドの中でチャンスがあれば倒すという感じです。

――(昨年3月の)富岡(浩介)選手とのユース王座決定戦は強気に倒しに行った試合で逆に倒されて、苦しい試合になりましたね(2-1の判定勝ち)。
野上 あの試合は、やる前から倒せるとしか思ってなくて。正直、ダウンを取られるとも思ってなかったんで。

――6ラウンドに左アッパーで。
野上 はい。まあ、見えない角度で、何をもらったかも分かってなかったんで。で、動画で見返したら、ずっと(タイミングを)測られてて、狙われてるのが分かったんですけど。

――それぐらい倒そう、倒そうになっていた。
野上 そうですね。まあ、見えないパンチほど怖いものはないなと思ったし、プロの8オンスの怖さも知れたんで。なんで、富岡戦の次のフィリピンとの試合は。

――まったく違うボクシングを(ダンリック・スマポン戦は、ジャッジ全員が80-72のフルマーク勝ち)。
野上 まあ、拳を壊してたのもあるんですけど。当てて、脚を使って、何もさせないで、ポイントを取ればいいと考えてたんで。

――強気に戦うところ。確実に戦うところ。両方をうまく出し入れしながら、ミックスするのが理想ですか。
野上 はい。ミックスして。ラウンドごと、場面ごとに変えたり。次の試合は頭のいいほうが勝つと思うんで、自分の巧さを見せるだけです。

――永田選手は忙しく足を使って、速いテンポでポンポン手数を出してきますよね。あまり向かい合ったことのないタイプでは?
野上 いや、逆に来てくれるんで、自分は好きだと思います。当てるだけでいいというか、こっちから(射程距離に)入らなくても、来てくれるところにコツン、コツンと当てるだけなんで。

――やりやすそう?
野上 そうですね。身長も低いんで(野上は168cm、永田は161cm)、そこも有利だし。まあ、スロースターターで後半型ですけど、相手の出方次第で、1ラウンドから来るなら、1から倒しに行く可能性もあるし。

――自信がありそうですね。
野上 自信しかないですね。

苦闘となった富岡(右)とのユース王座決定戦

■頭を使うところが一番の面白さ
――ボクシングを始めたのはいくつですか。
野上 小3だったと思います。最初は遊び感覚というか、プロを目指すとかもなくて。嫌々やってましたけど(笑い)。

――やらされた感じ?
野上 はい。近くでやってるから行け、みたいな感じで父親に。

――どこかの時点でのめり込んだ?
野上 いや、そんなには(笑い)。

――ほかに何かスポーツは?
野上 中学では、ボクシングをしながら陸上に入ってました。

――短距離ですか、長距離ですか。
野上 長距離ですね。長ければ長いほど、自分はいいですね。

――その頃にはもうアンダージュニアとか、U-15の大会に出ていますよね。そういう大会にはいつ頃から?
野上 小5からです。

――試合に出るようになって、気持ちが変わってきたところも?
野上 まあ、負けず嫌いなんで。やるからには勝ちたいし、一番になりたいから。合宿や遠征でいろんな県に行けたのはよかったです。

――高校の1学年下の後輩になる山口友士(三迫)選手とは小、中学生の頃から一緒に大会に出ていたんですよね。
野上 そうです。ユウシとは大阪に行ったり、東京に行ったり、遠征とか、いろんなジムに一緒に行きましたけど、後輩というより友だちみたいな。何も気を遣わないんで。向こうも(笑い)。

――そういうのが楽しかった。
野上 そうですね。ユウシとは今もたまに会ったり、試合の応援も行きますし。5月(13日)の金城(隼平=RE:BOOT)との試合も(金城の判定勝ち)。

――金城選手とは同い年で、高校時代に試合しているんですよね(最後の年の選抜準決勝で野上が判定勝ち)。
野上 あ、そうですね。2人とも知ってるから、複雑なところもあったんですけど、そこは後輩を応援して(笑い)。

――で、中学3年のときのアンダージュニア、U-15で全国優勝もして。そこから気持ちが入ったところも?
野上 どうなんですかね。そこがあっての高校では1回も獲れなかったんで。まあ、1回は自分の計量オーバーだったんですけど。

――選抜の決勝で。友士選手がアンダージュニアで負けた穴口(一輝)さんが相手だったんですね。
野上 あ、そうですね。やりたかったですね。50gオーバーだったんですよ。アマチュアは1回乗ったら終わりで、その場でパンツを脱いだんですけど。正直、100g、50gだったら、それで落ちるじゃないですか。変わらなくて。まあ、体重計が止まった状態で脱がされて。

――そういうことが。
野上 出てしまった結果なんで、認めるしかないんですけど、そこに怒りはあるんで。それがあって、今もフライ級にこだわってるのかもしれないです。

――そこから大学に。
野上 まあ、正直、大学に行くつもりもなかったんですけど、オリンピックを目指そうと。けど、コロナ禍で(2年生から)試合がなくなったり、気持ちが乗らなくて。もう、やめようかなと思ったんですけど、ずっとボクシングをしてきて、結果を残せなかったから。それでプロに。

――プロで結果とは世界チャンピオン。
野上 はい。やるからには。そこを目指さないとやる意味がないんで。

――野上選手にとってのボクシングの面白さとは?
野上 倒すとかより、頭を使うところが一番、面白いと自分は思いますね。

――相手との駆け引きとか。
野上 そう、そう、駆け引きとか。まあ、技術とか。

――そこは自信があるところ。
野上 はい。自分のボクシングはそういうボクシングだと思ってるんで。

柴田トレーナーとのミット打ち

■飯村樹輝弥にやり返したかった
――(2023年7月の)プロデビューから2年を振り返って、ご自身ではどう評価しますか。
野上 左ストレートが下手クソだったんですけど、(柳光)会長や柴田さんに教えてもらって、ノーモーションでスコンと出せるようになって、少しずつ(的確に)当てられるようになってきたんで。プロの打ち方になって、パンチがついてきたというか。そこはよかったと思います。

――左ストレートが得意じゃなかったとは思えないですけど(笑い)。
野上 いや、いや、もう全然(笑い)。変なところばっかり打って、キレイに当たってなかったんで。

――しっかり打ち込めて、拳で的確に捉えられるようになって、威力も増したということですか。
野上 そうですね。しっかり体重を乗せて、しっかり拳を返して打てるようになってきたんで。

――印象に残る試合というと?
野上 やっぱり、一番は富岡戦ですね。プロの怖さを知ったんで。ほんとはユースを獲ったら、日本ランクに入るんで、すぐに(当時日本王者で現・東洋太平洋王者の)飯村(樹輝弥)選手に挑戦したかったんですけど。あんな内容で、やりたいとも言えなくて。

――快勝したら、リングの上から言うつもりで。
野上 はい。スカッと勝って。

――確か(拓殖大)1年のときのリーグ戦で、(日大4年で主将の)飯村選手に負けているんですね。
野上 そうです。だから、やり返したいのはありました。まあ、強い選手のほうが駆け引きの部分で試合も面白くなるし、飯村選手、技術を持ってる選手じゃないですか。自分も負けてないよっていうのがあるんで。

――好きな選手というか、見て、参考にしている選手はいますか。
野上 人の試合を見て、というより、試合とかスパーリングで相手にされて嫌なことを自分のものにする、盗み取るというか。自分がされて嫌なんだから相手も嫌だろうという感じで。

――そういう引き出しをいろいろ。
野上 はい。次の永田戦も同じです。嫌なことをやる。まあ、あっちも作戦を考えてくると思うんですよ。言ってしまえばドローでも防衛だけど、自分は引き分けでは意味がないんで。

――挑戦者は最低6ラウンド取らないといけない。
野上 はい。まあ、別に前半で取り切れなくても焦ることはないですけど。

――では、あらためて次の試合、自分のどういうところを見せたいですか。
野上 まあ、自分はまだ無名だと思うんで。こいつのボクシング、面白いなと思わせるような技術をたくさん見せて、しっかり覚えて帰ってもらうようにしたいですね。で、翌日が自分の25歳の誕生日なんですよ(笑い)。

――そうなんですね。
野上 はい。だから、試合の日が前夜祭なんで、しっかり勝って、自分の日にします。

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