12日、後楽園ホール開催の「ダイヤモンドグローブ」のセミファイナルはアマチュア出身のサウスポー同士による日本フライ級タイトルマッチ。王者の永田丈晶(協栄/27歳、8勝2敗)が6戦目で戴冠を狙う同級1位の野上翔(RK蒲田/24歳、5勝3KO無敗)を挑戦者に迎え、初防衛戦に臨む。
今年4月に王座決定戦を制した永田にとって、これが“2度目”の初防衛戦になる。一昨年4月、プロ5戦目で同タイトルを獲得するも3ヵ月後に王座陥落。高校、大学時代に1勝3敗の宿敵で、現・東洋太平洋フライ級王者の飯村樹輝弥(角海老宝石)に判定で競り負けた。
まさかの連敗を喫し、引退も頭をよぎった。試合後の控え室で思わず涙があふれた再起戦勝利、最強挑戦者決定戦と「どん底から勝ち上がって、獲れた喜びは大きかった」と実感を込める。
元国体王者の永田はジムでは数少ないアマチュア経験者で、新生・協栄ジムに初タイトルをもたらした。「意識の高い姿勢は見習うところが多いし、刺激にもなる」と、同い年でプロテストも同時期の日本ライト級11位・川口高良が言うように、叩き上げぞろいのジムメイトを引っ張る存在でもある。
前回は地元熊本に凱旋できなかったが、今回はベルトを持ち帰り、苦しいときも支えてくれた人たち、誰よりも応援してくれた亡き父に報告も果たした。3月に長男が生まれ、勤務する求人広告会社は育休中。会社への感謝とともに「家族のためにも頑張らないと」。今度は手放すわけにはいかない。
まずは初防衛を果たし、「いつかはしっかりとリベンジしたい」という飯村の背中を追いかける。(取材/構成 船橋真二郎)
※「ダイヤモンドグローブ」の模様は12日18時の第1試合開始からFODでライブ配信される。
■野上が中学時代にスパー経験も……
――2度目の日本チャンピオンですが、やはり違いはありますか。
永田 そうですね。前回はすぐ獲られて、その後も負けて。そういうどん底から勝ち上がって、獲ることができたんで。その分、喜びはすごく大きかったです。1回目に獲ったときよりも。
――再起戦にも敗れて、進退を悩んでいたときに熊本に帰って、地元の方たちの応援の声に支えられたんでしたね。
永田 そうなんですよね。自分がほんとにキツイ状態だったときも応援していただいて。それがあったからこそ、今があると思ってるんで。だから、前回はみなさんにベルトを見せる前に負けてしまったんで、今回は速攻で帰って、お礼に回りました(笑い)。
――奥さん、お子さんはさすがに。
永田 はい、ひとりで。4日間ぐらいで回って。
――初めてベルトを持ち帰って、みなさんの反応はどうでしたか。
永田 すごく喜んでくれて。よく頑張ったね、また頑張って、勝ち続けてね、みたいに言っていただいたんで。励みになりました。
――お父さんにもやっとベルトを見せられましたね。
永田 そうですね。ちゃんとベルトを持って報告できたんで、よかったです。今回はしっかり初防衛できるように頑張らないといけないですね。
――相手の野上選手は拓大出身で、次が6戦目という挑戦者です。
永田 6戦目ですよね。強い相手だと思うんで。まあ、まだ全然、プロの試合は多くないんで、見せてない部分も多いと思うんですけど。
――その限られた情報の中で今、持っている印象としては?
永田 まず身長が高いですよね(永田が161cm、野上が168cm)。巧くて、相手が気を抜いたところとか、ジャブで下がったところとか、そういうところを的確に狙ってるのは感じます。アマチュア出身で、技術も持ってると思うんで。
――相手のスキ、打ち終わりとか、そういうタイミングをしっかり見極めて、狙っているのを感じる。
永田 はい。そういうところがあるのかなと思います。まあ……高校のときにスパーしたことがあるんですけど(笑い)。
――そうなんですか。
永田 はい。向こうはまだ中学生で、あんまり覚えてないんですけどね。
――永田選手が高校生のとき。
永田 はい。開新高校に来てたんだと思うんですよ。自分もよく行ってたんで。
――よく合同練習に行くと言っていましたよね(永田は熊本工業高)。
永田 そうですね。まあ、詳しく覚えてないし、覚えてても参考にならないのかなと思いますけど(笑い)。
――野上選手は、永田選手とはアマチュアでは試合していないぐらいで、そのスパーリングの話は出てこなかったですね(笑い)。
永田 まあ、覚えてないですよね。10年ぐらい前なんで(笑い)。
――3つ違いですよね。野上選手は1年のときのリーグ戦で永田選手と同い年の飯村選手(日大)に負けているんですけど。その年、中央大は1部ですか。
永田 1部です。でも、拓大のときは自分、バンタムで出てたんで(笑い)。(※野上はフライ級で当時中央大、現・自衛隊体育学校の牧野草子に判定勝ち)
――ニアミスだったんですね(笑い)。
■キャリアの違いを見せる
――その野上選手に対して、イメージする試合展開は?
永田 自分の場合、いつも通りと言えば、いつも通りですかね。どう自分のボクシングに持ち込むか。
――自分の手数とテンポに相手をどう巻き込んでいくか。
永田 はい。だんだん、だんだん巻き込んで。削って、削って。
――で、後半に差を広げていくような。
永田 そうです、そうです。そこは変わらないです。
――野上選手は同じサウスポーの富岡浩介(RE:BOOT)選手と激しい試合をして、その次のフィリピン人選手とはキレイなボクシングをして。
永田 そうですよね。いろんなボクシングをしてますよね。
――どう出てくるとか、イメージはしますか。
永田 いや、分からないですね。そこは実際に相対してみないと。だから、まず自分のボクシングでしっかり対処することだと思います。
――野上選手は6戦目で、まだすべてを見せていないということですけど、永田選手も初挑戦は5戦目で。数字としては近いですよね。
永田 たしかに(笑い)。ただ、野上選手の場合、日本人選手は富岡選手だけで、あとは外国人選手なんで。まだキャリアとしては積んでないところだと思うんで。自分は日本人の結構、強い相手とやってきたと思ってるんで。
――デビュー戦はバンタム級で。それ以降もアマチュア出身の力のある選手に相手のホームで勝ったり。
永田 はい。やらせていただいてるんで。そこのキャリア(の差)は出るのかなと思います。そこでしっかり自分のボクシングに持ってこれるように。
――まあ、やってきた相手が違うぞ、ということですか(笑い)。
永田 フフフ(と笑って、ごまかす)。
――お前とはキャリアの中身が違うぞ、と(笑い)。
永田 ん?……はい(笑い)。
――そういうキャリアの違いも見せて、初防衛戦をクリアすると。
永田 はい。しっかり。ここから1戦1戦、勝ち続けていかないと。
――このベルトは飯村選手が返上したもので、その飯村選手は東洋太平洋王者になって、(5月の)初防衛戦では一度負けた相手(エスネス・ドミンゴ)に完勝しました。いい刺激になったのではないですか。
永田 そうですね。めちゃくちゃ刺激になりました。
――あの試合は内田(洋二トレーナー)さんと会場で見ていましたよね。
永田 はい。見てました。強かったですよね。着実に世界に近づいてるんで、負けてられないなっていうのもあるし。いつかはしっかりとリベンジしたいと思ってるんで。そのためにも1戦1戦、階段を上がっていかないといけないですね。
――いいライバルですよね。
永田 はい。まあ、飯村くんがどう思ってるか分からないですけど(笑い)、ここから一歩一歩、追いかけていきたいというのはあります。
■山内戦で見せた“即興性”
――4月の王座決定戦の2週間前ぐらいにお子さんが生まれて。会社は育休中なんですよね。
永田 あ、そうですね。子どもが生まれてから。
――どうですか。これまでとは生活のサイクルが違うと思いますけど。
永田 そうですね。最初は夜泣きもあったんで、しんどい時期もありましたけど、今はしっかり寝てくれるんで。朝、走って、子どものお世話とかして。夕方からジムで練習して。帰って、お風呂に入れてっていうサイクルで。まあ、今までは遅い時間に夜ご飯を食べてたんですけど、早い時間に食べられるのが嬉しいです。結構、嬉しいですね、それは(笑い)。
――仕事終わりにジムワークをして、帰ってからだと遅い時間になりますよね。
永田 そうです、そうです。それが朝、昼、夜とバランスよく食べられるんで。
――その分、調子もいいですか。
永田 そうですね。いい感じのリズムでやれてるんで。
――育児は奥さんと分担して。
永田 そうです(笑い)。でも、練習時間は全部、任せちゃうんで。そういう感じで練習できるのは奥さんのおかげなんで。ありがたいなと思います。
――どうですか。お子さんが生まれて、父親として。
永田 いや、この子を育てるためにも頑張らないといけないなって、それは毎日、顔を見て、すごく思うんで。家族のためにも頑張らないといけないですね。
――育休はいつまでですか。
永田 1年です。1歳になるまで。
――来年の3月まで。何回か防衛できますね(笑い)。
永田 たしかに(笑い)。ありがたいですね。こういう感じで働かせてもらえるところはないと思うんで。ありがたいなって、ほんとに思います。
――チャンピオンに返り咲いて、会社の反応はどうですか。
永田 あ、喜んでいただいて。前回もFODのライブ配信を会社の休憩室とかで、パブリックビューイング的な感じで流していただいてたみたいで。試合の時間は終業時間ではあったんで(笑い)。
――後楽園ホールに行けない方は会社で。
永田 そうですね、応援していただいて。嬉しいですよね。だから、自分も頑張らないとなって思いますし、ほんとに感謝です。
――で、今回のメインが大学の先輩の川浦(龍生)選手の防衛戦で。4つ上で重なってはいないですけど、気持ちとしてはどうですか。
永田 いや、こういうのは初めてなんで、嬉しいですね。
――大学のOBと一緒に試合するのは初めて?
永田 初めてなんですよ。
――リーグ戦のような感覚。
永田 いや、ほんとにそうです。楽しみですね。しっかり勝って、いい形で川浦先輩につなぎたいです。
――では、あらためて次の試合、どういうところを見せたいですか。
永田 なんですかね……。ワンパンチKOします! とか言ってみたいですね、めっちゃ言ってみたいですけど(笑い)、それは川浦先輩に任せて。
――先輩にプレッシャーを(笑い)。
永田 いえいえ(笑い)。なんですかね……まあ、自分は自分のボクシングで。
――でも、前回の山内戦は、これまでの前後の動き、出入りだけじゃなくて、アッパーを打って、サイドに動いたり、回り込んだり、幅が広がったと思うんですけど。
永田 あ、後半ですよね? あれはパッと浮かんだというか、あれを実戦の練習でやってたかというと、そうでもないんですよ。
――試合の中で。
永田 そうですね。まあ、できたらいいなっていうのはあったんですけど。試合前に(ワシル・)ロマチェンコの動画を見たりして(笑い)。
――動画はどのタイミングで?
永田 電車の中で(笑い)。こういう動きできねえかなって。
――それは試合当日の?
永田 はい(笑い)。まあ、ちょこちょこ見てはいたんですけど。
――そういう話を前も……。3戦目の峯(佑輔=六島)選手の試合ですかね。いつも左のパンチから入るところ、右ジャブがよく当たるから、まったく練習してなかったけど、それで行ったと。
永田 ああ! そうかもしれないです。
――アドリブというか、試合の中でパッと即興でできるところがあるんですね、
永田 たしかに。たまに降りてきます(笑い)。
――では、次の試合、そういうところも楽しみにして。
永田 はい……いや、自分のボクシングでしっかり勝ちます(笑い)。
