9日、東京・後楽園ホールで行われる「ダイヤモンドグローブ」のセミは24歳未満のA級選手が争う日本ユース・ウェルター級タイトルマッチ。王者で日本同級7位の磯谷大心(三迫/24歳、9勝6KO3敗)が元高校王者の山本諒真(DANGAN/22歳、5勝5KO2敗)を挑戦者に迎え、2度目の防衛戦に臨む。
2022年の東日本新人王戦。ウェルター級は最注目の階級だった。日章学園高校時代に国体優勝の松野晃汰(神奈川渥美)、東海大学付属熊本星翔高校1年時にインターハイ制覇の山本、そして炎の男・輪島功一の孫として話題を集めてきた磯谷。3人そろって準決勝に勝ち上がったが……。山本、磯谷と連破した松野が優勝をさらった。
その後、磯谷は3連敗と低迷したが、そこから5連勝と上昇。その過程で松野にもリベンジし、日本ユース王座を奪取、日本ランク入りも果たした。一方の山本。こちらは2連続KO負けからの4連続KO勝ちも、秘めたポテンシャルは発揮できないまま。これが初の8回戦になる。
この2人、もともと6月に対戦が計画されていたが、3月の“前哨戦”で山本がアゴを骨折してしまった。交わりそうで交わらなかった道がようやく交差。磯谷は上へのステップアップ、山本は巻き返しを期してリングに上がる。
熊本県八代市出身の山本。この日のメインで日本ライトフライ級王座決定戦に出場する野田賢史(金子)とは同郷になる。山本がボクシングを始めたのは小学4年生で、実は最初に入ったのが当時高校3年生の野田と同じ八代ジムだった。「面識はないですけど、僕は覚えていて。同じ頃に何回か一緒に練習した記憶があります」。遠い記憶の中の“秀岳館のお兄さん”との思いがけない競演となる。
中学から元日本ランカー・吉田龍生さんが宇土市で主宰するスタイルトップジムに移り、全日本アンダージュニア大会で優勝。高校3年のときに世界ユース選手権に出場し、初戦で敗退したが、中学、高校と国内では負け知らずだったという。コロナ禍で2年ぶり開催となったインターハイに出場。計量直後にチーム内に濃厚接触者が判明し、試合目前で全員失格の悲運も味わった。
瀬端幸男会長がワタナベジム・マネジャー時代の内山高志以来、「スカウトしたのは2人目」と惚れ込んだ原石。同門の星大翔も「持ってる能力はかなり高い」と評価する。ケガ明けで実戦練習ができない時期から「ディフェンスを中心にボクシングを1から見直してきた」と話す石原雄太トレーナーは「総合的によくなってきた。しっかり試合で出せれば」と真価発揮に期待する。
この10月にアマチュア出身の大物・荒竹一真(大橋)を圧巻の3回TKOで下し、一躍脚光を浴びた坂田一颯(さかた・いっさ、S&K)は高校の同級生。後楽園ホールで殊勲を見届け、刺激をもらった。「次は諒真の番」と激励も受け、「ひとつの分岐点」と位置付ける一戦で「前とは違う自分に進化してきた」成果を見せる。(取材/構成 船橋真二郎)
※「ダイヤモンドグローブ」は9日18時の第1試合開始からFODでライブ配信される。
■いつか絶対にやると思っていた
――もともと6月に対戦予定が、3月の試合(パッドヨット・キアットチャルンシリ《タイ》戦)でアゴを骨折したと聞きました。
山本 そうです。あの1ラウンドのダウンのときに。
――傍目には分かりませんでした。
山本 あのときは口も開かないし、なんかグラグラすんなっていうのはあったんですけど、自分も折れたことがなかったんで、まさか折れているとは思わず。
――パンチのダメージもあったように見えましたが、よく挽回しましたね。
山本 まあ、めっちゃ痛かったですけどね。まさか折れているとは考えなかったんで、とりあえず勝つしかないと思って。
――5ラウンドにボディで倒し返して(5回逆転KO勝ち)。
山本 そうですね。で、試合後に病院に行ったら、折れてることが分かったんですけど。
――アゴだから結構、長い期間、療養が?
山本 いつだったかな……。5月中旬までかな。5月に退院したんで。
――2ヵ月も入院していたんですか!?
山本 あ、そうです。想像以上に大ケガで。で、退院して、じょじょにやれることから始めた感じです。実戦を始められるようになったのが、9月に入ってからだったんで。
――そういう大変な経験も経ての復帰戦が、仕切り直しの磯谷選手に決まったことは?
山本 前回6月の試合が流れても、またチャンスをいただけたんで、しっかり勝たないとな、と思ってるし、絶対に勝たないといけない試合です。
――プロデビューしてから、結果もそうだし、思うような試合ができなかったと思うんですけど、これに勝てば、ランキング入り、ユース・タイトル獲得と一気に取り戻すチャンスですよね。
山本 そうですね。ちょっと出遅れちゃいましたけど、ひとつの分岐点かなと思ってます。
――新人王同期ですけど、磯谷選手のことはどう見てきましたか。
山本 新人王のときから名前が売れてたし、ずっと、いつか絶対にやるだろうな、と思ってましたけど。まあ、顔もカッコいいし、輪島功一さんの孫だから話題性もあって、注目されるだろうな、みたいな(笑い)。
――いつか絶対にやるだろうな、と。
山本 それはありました。自分はユースからやり直すことになると(瀬端)会長からも言われてたし。で、去年(12月)ですよね、磯谷選手がユースを獲ったんで。これは絶対にやるだろうな、と思いました。
――戦う相手として、磯谷選手をどう見ていますか。
山本 まあ、(身長が)デカいですし、距離が遠そうだなと。ボクシングが上手とは思わないですけど、独特の距離があるんだろうなと思ってますね。パンチも思い切り振るし、パンチ力、当て勘もあるのかなと思います。
――そういう外からでは分からない、向かい合ってみないと分からないところがありそう。
山本 対面したら、見てる以上に距離があって、嫌なんだろうな、というのはイメージしてます。
――前回、磯谷選手の加藤大河(DANGAN越谷)選手との再戦は劇的な逆転KO勝ちで。あの試合はどう見ましたか。
山本 気も強いし、気持ちもあるし、逆転する力があるんで。実際、やるとなったらやりにくい、崩しにくいんだろうな、というのは思ってますね。
■倒れるときは倒れるという感覚で
――ケガ明けで9ヵ月ぶり、久しぶりの試合でもあります。
山本 でも、いいチャンスがもらえたんで、モチベーションも高いし、石原(トレーナー)さんと取り組んできたことがやっと形になるぐらいの時期なんで。久しぶりとかは気にせず、やってきたことを出して、勝ちたいなと思ってますね。
――この江古田にDANGANジムができた頃は、まだ石原トレーナーと組んでなかったと思うんですけど、いつ頃から一緒に?
山本 去年の12月の試合(2回終了TKO勝ちしたチェ・テワン《韓国)戦)の前からだったんで、ちょうど1年ぐらいです。
――そろそろ一緒にやってきたことを成果として。
山本 出していかないとな、と思ってますね。
――以前、少しお話を聞かせてもらったとき、まだプロで自分の力を出し切れていないということでしたが、どのように取り組んできましたか。
山本 まあ、簡単に言えば、ディフェンスです。考え方もそうだし、ディフェンス力を高めてきた感じです。
――意識が攻撃に偏っていたところが?
山本 そうですね。ディフェンスが大事だ、大事だと思ってるんですけど、どうしても攻撃に重きを置いてしまうというか。でも、そこも変わってきたし。
――石原さんからはディフェンスを中心に指導を?
山本 はい。自分がもらっちゃうんで、ディフェンスをよく教えてくれますね。
――実戦練習を再開したのが9月からということでしたけど、逆にディフェンスとか、そういう技術練習にじっくり取り組めたところもありましたか。
山本 あ、そうですね。実戦ができない中で、また1から教えてもらって、自分の中でしっかりイメージしながらできたんで。それで変わってきたところもあります。
――実戦練習を始める中で変化を確認できた。
山本 さすがに最初は久しぶりで、なかなか動かないし、思うようにはいかなかったんですけど。じょじょにですね。やっていくうちに前とは違う動きが出てきて、前とは違う自分に進化してきた感覚があって、その精度を高めてきたんで。それを出せればと思ってます。
――そういう変化も感じてきた中で、次はどういう試合を見せたいですか。
山本 まあ、相手がどう出てくるか分からないんで。距離を取る感じだったら、こう詰めようとか、前に出てくる感じだったら、こう対処しようとか。どっちで来ても対応できるようにイメージしてやってます。
――イメージする勝ち方は?
山本 イメージは判定というか、判定を想定してやっていって、倒れてくれたら、それでいいな、ぐらいの感覚です。まあ、よくあると思うんですけど(笑い)。
――じっくり試合を進める中で、流れをつくるなり、チャンスをつくれれば、というか。
山本 そうですね。一発もらって倒されちゃったら意味ないんで。ディフェンスの幅というのかな、ディフェンスの種類も広がってきてるので。
――特に前回3月の試合で一発の怖さは身をもって味わったし、それぐらいのほうが自分の力を出せると。
山本 はい。倒れるときは倒れると思うんで。
――自分の武器として、パンチ力には自信がありますか。
山本 まあ、自分でパンチがあるな、と思ったりはしないんですけど、そう言ってもらえるんで、ないほうではないんだろうな、ぐらいですね。
――今のところ勝った試合は全KOですが。
山本 別にA級で全部KOとかじゃないんで、そこまで意識はしてないですね(笑い)。倒せれば見てる人が面白いだろうから、倒せればいいのはいいですけど。特にこだわりはないです。
■坂田に続き、上昇気流に乗れるか
――10月22日に後楽園ホールで高校の同級生の坂田一颯選手が。
山本 あ、ホールに応援に行きましたけど、勝ちましたね。
――荒竹選手にああいう勝ち方をして。
山本 いや、やる前から、俺はどっちが勝ってもおかしくないな、ぐらいに思ってたんで。みんなの予想は荒竹さんになってたっすけど、一颯もかなり強いんで。実力を出したら変わらないぐらいだと思ってたから。そこまでビックリはしなかったです。
※山本が高校1年でウェルター級を制したインターハイで、1学年上の荒竹はピン級で優勝。当時高校4冠を達成。
――それだけ高校の頃から能力的に一目置かれるような存在だった。
山本 試合では毎回、あと一歩のところで落としてましたけど、とにかくセンスがすごかったですね。
――しっかり試合で実力を出したわけですね。
山本 そうですよね。刺激にはなったし、すげえな、と思いましたよ。
――それこそ、山本選手にチャンスが巡ってきたタイミングで。
山本 そうっすね。連絡取ったとき、「次は諒真の番だね」って言ってくれたんで。
――会いはしなかったんですか。
山本 会わなかったです。一颯の試合が終わったら、すぐ帰ったんで(笑い)。で、もしかしたら次の試合、仕事の調整がついたら来ると言ってくれてるんで。
――そうなったら一層、力になりますね。高校時代はコロナで2年生のときの大会が全部中止になったり、3年生のインターハイは1回戦の直前で……。
山本 あ、そうですね。計量までして。できなくなって。
――そういう悔しい思いを共有した仲だし、坂田選手もプロでは全日本新人王になったとはいえ、試合が中止になったり、決まらなかったりして、あれが1年ぶりの試合で。苦境の中でチャンスをしっかりつかんだ勝利ですよね。2人でいい結果を出して、来年につなぎたいですね。
山本 そうですね。自分も勝って、ランキングに入ったら、また来年、違う立ち位置からスタートできるんで。今年ラストしっかり勝って、ここからいい流れで行きたいと思います。
