10日、東京・後楽園ホールで「ダイヤモンドグローブ」が開催される。メインはWBOアジアパシフィック・S・フライ級タイトルマッチ。チャンピオンの川浦龍生(かわうら・りゅうせい、三迫/31歳、14勝9KO2敗)が同級7位の韓亮昊(はん・りゃんほ、六島/28歳、5勝3KO無敗)を迎え、3度目の防衛戦に臨む。
川浦は徳島市立高、中央大、韓は大阪朝鮮高、東京農業大で豊富なアマチュアキャリアがあり、ともに中・長距離を主戦場とする技巧派のサウスポー対決。川浦は2022年に三迫ジムに移籍して以来、前に攻める姿勢を磨き、タイトルマッチを勝ち抜いてきた。長身173センチの韓もプロでは「オールラウンダーじゃないと世界は獲れない」と果敢なインファイトも見せてきた。
「どの距離が嫌というのはない。どんな展開になっても勝つだけ」と自信を示す川浦に対し、「前半からエンジン全開で行く」と宣言する韓が仕掛けていくのか。どちらが、どこで、どう試合を動かし、ペースをつかむのか。両者の駆け引き、主導権争いが注目される。
川浦はWBO2位、WBA4位、IBF6位と世界3団体で上位につけ、昨年4月の4戦目でIBFインターナショナル王座(JBC非公認)を奪取した韓はIBF7位にランクされる。3月で32歳になる川浦は「負けたら終わり、常に崖っぷちの気持ちでやっている」と「夢の世界チャンピオン」に向けて、自らを奮い立たせてきた。プロ6戦目の韓は「相手が持ってるものを全部奪ったろうという気持ち」と気合い十分。ベルトと世界ランクをかけ、互いの技巧と気持ちがぶつかり合う。

プロ6戦目でWBO-APタイトルに挑む韓亮昊
■「人間性が素晴らしい」と李健太
アマチュア時代の韓は遅咲きだった。高校から本格的に競技を始め、全国大会初出場は3年時。インターハイでは中垣龍汰朗、国体では松本圭佑(ともに大橋)、のちに大学の後輩となる当時の“スーパー1年生”に上位進出を阻まれた。大学では3年までリーグ戦未勝利も、主将を任された4年時は全勝で階級賞に選出。全日本選手権で2年連続3位入賞を果たすのは卒業後だ。
高校の2学年上の先輩・李健太(帝拳)は「人間性が素晴らしい」と手放しで後輩を称える。「なかなか芽が出なくても、コツコツ真面目に努力する。だから、(大学で)主将にも選ばれたと思うし、最後は結果も出した」。韓にとっては「ゴンテ先輩がおらんかったら、ボクシングはしてなかったかもしれない」という憧れの存在。今も試合のたびに刺激をもらっているという。
北朝鮮代表としてパリ五輪を目指していたものの、実力とは関係ないところで選考から外れる。社会人として真正ジムで練習していた頃に知り合った安東浩志トレーナーから熱心に誘われ、プロ転向を決意。悔しさもバネに世界を目指す。
昨年秋には計3回、トータル約1ヵ月、大橋ジムで那須川天心(帝拳)戦を控えた井上拓真のスパーリングパートナーを務め、その身に貴重な経験を取り込んだ。待望していたプロ初の後楽園ホール、タイトルマッチに「ボクシングファンに僕のことを知ってもらいたい」とモチベーションは最高潮。2026年の六島ジムのトップバッターという役回りも「僕がみんなに勢いをつけたい」と意気に感じ、「倒して勝つ」と意気込む。(取材/構成 船橋真二郎)
※「ダイヤモンドグローブ」は10日18時の第1試合開始からFODでライブ配信される。

安東トレーナーのミットに左ストレートを叩き込む
■プロ3戦目が終わった時点でタイトル挑戦を直訴
――川浦選手に挑戦することが決まって、どんな気持ちでタイトルマッチに向かってきましたか。
韓 JBC非公認はあるんですけど、公認のタイトルに挑戦するのは今回が初なんで。世界ランキングもそうだし、相手が持ってるものを全部奪ったろうという気持ちで、ずっと練習に臨んでますね。
――待ちに待ったという思いも?
韓 そうですね。もともとデビューした年の冬(2024年12月)のプロ3戦目(近藤冬真=蟹江)が終わった段階で、(枝川孝)会長に「タイトルをやらせてください」という旨を伝えて、JBC非公認のタイトルに挑戦させてもらったんですけど。やっと公認のタイトルに挑めるんで。
――3戦目が終わったところで、もうタイトルを獲る準備はできていた。
韓 できてましたね。まあ、その試合が終わって、日本ランキングに入って、東洋太平洋とかもまだ10位前後だったんで、チャンピオンからしたら僕とやるメリットはなかったんですけど。
――昨年4月に韓国でIBFインターナショナル王座を獲って、IBFランキングに入ったことで、メリットをつくったという意味では、チャンスを引き寄せたとも言えますね。
韓 まあ、無視できない存在になれたんじゃないかなと思います。
――相手が持っているものを全部奪ってやるということでしたが、チャンピオンは3団体で上位にランクされています。
韓 勝ったら、ほんまに次、世界戦とか、挑戦者決定戦になってもおかしくない、ありえる話になってくると思うんで。嬉しいですね。
――川浦選手の印象は?
韓 正直、川浦選手のことは、チャンピオンになるまで知らんかったんですよ。で、(一昨年8月に)大橋哲朗(真正)に勝ったじゃないですか。言うたら哲朗に挑戦したい気持ちがあったんですけど、そこから意識するようになって。印象としては、賢いボクシングをするな、と思いますね。基本は待ちですけど、インファイトでもしっかりポイントを取れるんで、巧いなと。
――大橋選手との試合は逆転でした(川浦の11回TKO勝ち)。
韓 ボクシングって、お互い倒さない限り、何が起きるか分からないんで。哲朗は足をつって、気持ちが折れたから負けたし、逆に川浦選手の気持ちが折れてたら勝ってたでしょうし。そういう粘り強さがあるんじゃないですかね。で、ここ2戦は安定感が増してきた感じはします。

プロ3戦目の韓(右)は粘り強い近藤冬真を5回でストップ
■気持ちの強さは誰にも負けない
――賢いボクシングをする、インファイトでポイントも取れる、そういうチャンピオンに対して、どんな試合をイメージしますか。
韓 言うても僕は挑戦者で、アウトポイントして勝とうとは思ってないんで。前半からエンジン全開で行きますよ。打ち合うところは打ち合って、そこで男として打ち勝ちたいし、そういう場面が序盤からあるんじゃないですかね。
――リャンホ選手は長身で、中・長距離で巧いボクシングをする一方で、前に攻めていくところも見せてきました。
韓 相手が強くなるにつれて、アウトボクシングだけじゃ勝てないというのは3戦目ぐらいから思ったんで。
――その近藤選手は、戦績は負け越しですけど、アマチュア出身の中嶋憂輝(角海老宝石)選手、中垣龍汰朗選手と引き分けたり、力のある選手と粘り強く戦ってきた選手で、5回でストップしたのは印象的でした。
韓 中垣と引き分けたり、怖さはあったんで。あれで結構、自信がつきました。もっとガツガツ来ると思ってたんで、ある意味、想定外で。次の韓国の試合が一番しんどかったです。
――フィリピンのサウスポーの選手(ラミル・ロダ)とのIBFインターナショナル王座決定戦は激闘で、終盤に倒しきって。気持ちの強さが見える試合でした(9回TKO勝ち)。
韓 気持ちの強さは誰にも負けないつもりなんで。次の5戦目(クアン・チュンリン=中国)もインファイトが多かったですけど、西田(凌佑=六島)さんのようにオールラウンダーじゃないと世界は獲れないですからね。
――川浦選手とは、どう仕掛けるか、どう対応するか、お互いに臨機応変に戦うことが求められる試合になりそうですね。
韓 僕は結構、相手の映像を見るんですけど、何が起きるかは向かい合わないと分からないんで、臨機応変に。そこは僕もアマチュアで長くやってきて、自信があるんですけど、向こうもプロで16戦やってきてるんで。楽しみです。
――チャンピオンもアマチュア経験がベースにあるし、いろいろなやり取り、引き出しを見せて、韓亮昊の力を見せられる試合になりそうですか。
韓 はい。で、僕はずっと東京で試合をしたいと思ってたんですよ。大阪では、僕の周りの応援していただいてる方たちに来ていただけるんですけど、ボクシングファンの認知度だけで言えば、後楽園のほうが大きいと思うんで。
――よりアピールできると。
韓 そうですね。なおかつタイトルマッチでできるんで。僕のことを知ってもらいたいですし、後楽園は大学のリーグ戦以来で、プロでは初なんで。嬉しいですね。しっかり勝って、僕のことを覚えてもらいたいです。
――後楽園ホールは、(2024年10月に)山﨑海斗(六島)選手が村田昴(帝拳)選手に負けて、タイトルを逃して、同じ担当の安東トレーナー自身、大阪帝拳ジム時代からいい思い出がない場所ということで。今回ですべて払しょくしたいと。
韓 もう、六島ジムの2026年の一発目が2月10日の僕なんで。で、そこから2月15日の山﨑、西田さんと続いていくんで。僕がみんなに勢いをつけたいですね。
※2月15日、大阪・住吉スポーツセンターで西田はIBF世界S・バンタム級挑戦者決定戦、山崎は東洋太平洋S・バンタム級王座決定戦に臨む。

安東トレーナーとアップダウンをつけたサンドバッグ打ちで追い込む
■遅咲きのアマチュア時代
――ボクシングを始めたのは中学2年生からですか。
韓 中2からですね。最初は遊び感覚でしたけど。
――梁学哲(リャン・ハクチョル)先生の拳青会ですよね。どういうきっかけで?
韓 僕の親父が、リャン先生が高校(大阪朝鮮)の監督をされてた頃の学生で、ボクシング部のOBなんですよ。で、リャン先生が勇退されて、僕の家の近所で拳青会をやってるっていうんで、教える立場としても行くようになって。で、時期は重なってないんですけど、そこにゴンテ先輩も行きだして、僕も親父に連れて行かれて。面白くなって、のめり込んで、中3の冬から本格的に。
――同い年の国本(陸=六島)選手も、当時はお互いに存在を認識していなかったけど、同じ時期に拳青会に通っていたと。
韓 そうですね。まあ、週1回やったんで。陸のことは高校(国本は興國高)で知って。
――それまでのボクシングとの距離感は?
韓 全然です。僕はずっとサッカーバカやったんで。高校に上がったときも、サッカー部の監督さんにも誘われてたんですけど、当時のボクシング部の監督さんがわざわざ家に来てくれて。その熱さに負けました。
――サッカーに未練は?
韓 基本的に目立ちたがり屋なんですよ。だから、「サッカー部、全国大会出場」より「韓亮昊、全国大会出場」のほうがいいなと思って(笑い)。
――ニュースとか、横断幕でも個人の名前が大きく出るから(笑い)。
韓 はい(笑い)。それを見せてくれたのがゴンテ先輩やったんですよ。カッコいいな、と思って。憧れの存在でしたね。ゴンテ先輩がおらんかったら、ボクシングはしてなかったかもしれないです。
――リャンホ選手は遅咲きというか、高校の全国大会初出場は最後の年で。
韓 そうですね。で、インターハイで中垣に負けて。
――国体は準々決勝で松本圭佑選手と、当時話題の1年生2人に。
韓 で、その2人が農大に入ってくるっていう。嫌やったんですよ、ほんまに(笑い)。
――特に中垣選手とは、リーグ戦のレギュラー争いもあったんじゃないですか。
韓 はい。あいつが入ってきた年は僕もフライで。で、レギュラー争い、ほぼ負けてましたね。ええスパーはするんやけど、向こうのほうが名前もあるし、(個人で)結果を出してるのもあって。
――なかなか選ばれなくて。
韓 そうですね。まあ、あの2人が入ってきたときは、負けられへんっていうので選考スパーはバチバチでした。まあ、4年生になって、僕がバンタムに上がって、バンタムは2人出れるから、僕と圭佑、フライは中垣が出て、最後は3人で仲良く出てましたけど(笑い)。
――その大学最後の年は主将で、リーグ戦では全勝で階級賞に選ばれたんですね。
韓 そうですね。僕の代は不作で全国チャンピオンがいなくて。で、妙にリーダーシップみたいなのはあったから、キャプテンに選ばれましたけど、3年までリーグ戦は出ても負けやったんですよ。これで負けたら恥ずかしい、負けたくないっていうのが強かったですね。
――卒業後に(2022年、23年に)全日本選手権で2年連続3位、社会人選手権で2連覇という結果を残して。で、年末の後楽園ホールに李健太選手が来ていたので「どんな後輩ですか?」って、少し聞かせてもらったんですけど。
韓 なんて言ってましたか。
――センスはあるけど、なかなか芽が出なくて、でも、真面目にコツコツ努力していたからこそ、最後に結果を出した、と。
韓 そんなん言ってたんですか(笑い)。
――人間性が素晴らしい、と。だから、結果を出してなくても大学でキャプテンに選ばれたんじゃないか、と話してくれました。
韓 めっちゃ褒めるじゃないですか(笑い)。今回、ゴンテ先輩が試合に来てくれるんですよ。僕も行きたいんですけど、いつも僕の試合の1ヵ月前がゴンテ先輩の試合なんで行けなくて。映像で見て、「オレもやったろう!」って、いつも刺激をもらってます。
――今回も1ヵ月前ですね。
韓 そうなんですよ。永田(大士=三迫)さんと試合をするから、また今回も勝ってもらって、僕も勢いに乗りたいですし、僕もゴンテ先輩の刺激になれたら。
※取材は1月17日にWBOアジアパシフィック・S・ライト級王座決定戦で李健太が永田に判定で勝利する前。

左から山﨑、国本、韓。2026年の六島ジムに勢いをつける(写真は2025年2月6日)
■背負っているものがある人ほど強くなる
――大学卒業後は北朝鮮代表としてパリ五輪を目指していたのが、日本で活動するリャンホ選手は選考から外されたというか。
韓 そんな感じです。しゃーない部分もあるんですけど、そこを目指して、僕もやってたから、しばらくボクシングはしてなかったんですけど。そこで安東さんに引っ張られて。
――試合会場で会うたびに安東トレーナーから誘われたと。
韓 そう、そう。「プロでやるなら、六島で」って、何度も(笑い)。
――実力と関係なく、目標がダメになって、そういう悔しさもあってのプロだと思うんですけど、どういう思いでやっていこうと?
韓 まあ、アマチュアのときは、別にスポンサーもついてなかったし、勝っても、負けても自分のせい、自分だけやったんですけど。でも、プロになったら、スポンサーをしてくださる方たち、チケットを買って、時間を割いて観に来てくださる方たち、六島ジムの後援会の方たちもいてますし、マッチメイクしてくださる枝川会長、教えてくれるトレーナーもいてるんで。そういう責任、背負ってるものをひしひし感じるというか。
――責任、背負っているものの大きさが違う。
韓 そうですね。僕は背負ってるものがある人ほど強くなると思うんで。今回、僕は挑戦者で、失うものはないやろ、と思われるかもしれないけど、そうじゃないよ、と。でも、向こうもプロでチャンピオンという基盤をつくってきて、失うものは大きいと思いますけど、僕も引けを取らないぐらい背負ってるものがあるんで。そのお互いの気持ちの強さが出るんじゃないですかね。
――懸けている気持ちの強さがリングに出ると。
韓 はい。最後は技術とかじゃなく、お互いの気持ちのぶつかり合いなんで。そこで勝つために練習してますし。
――その最後の1ポイントの争いで勝敗が分かれるかもしれない。
韓 いや、相手はチャンピオンで、後楽園で、僕はBサイドなんで。もちろん、倒して勝ちます。攻めて、攻めて。その分、僕が倒される可能性もありますけど、それぐらいのリスクを背負っても獲りに行きます。


