自分が持っているものを全部使って、何が何でも勝つ―― 2.10 WBO-AP王者の長尾朋範が富岡浩介とV2戦

10日、東京・後楽園ホールで開催の「ダイヤモンドグローブ」でWBOアジアパシフィック・フライ級タイトルマッチが行われる。チャンピオンでWBO5位の長尾朋範(ながお・とものり、フラッシュ赤羽/30歳、11勝6KO2敗2分)が指名挑戦者でWBO9位の富岡浩介(とみおか・こうすけ、RE:BOOT/23歳、10勝8KO4敗)を相手に2度目の防衛戦に臨む。

昨年4月、長尾は神戸に遠征し、王座決定戦で4回TKO勝ち。このベルトを手にしたが、相手の小田切駿平(RST)の左肩脱臼で続行不能となったもので、不完全燃焼感を残した。9月、王者の「責任感」を胸に村上勝也(名古屋大橋)を判定で退け、初防衛戦をクリアした。

富岡は9月、アウェーの静岡で当時WBO7位を筆頭に世界3団体でランクされていたマーク・ビセレス(駿河男児)とダウン応酬の末、劇的な7回逆転TKO勝ちを飾った。この勝利でWBOアジアパシフィック1位にもランクされ、タイトル初挑戦をつかんだ。

愛媛・新田高、大阪商業大でアマチュア経験のある長尾だが、決して器用なボクサーではない。「自分が持ってるものを全部使って、何が何でも勝つ」と試合に臨んできた。「過去最強の相手」と認める富岡に対しても変わらない姿勢で挑む。

小・中学生時代にジュニア通算6冠を果たした富岡。17歳のプロデビューから奔放かつセンスあふれるボクシングで注目を集めたサウスポーは、ここまで何度も挫折を味わってきた。23歳の今が「メンタル的にも安定して、一番いいタイミング」と満を持して、ベルトを奪いに行く。

対照的な両者の戦い。長尾が泥臭く勝ちきるのか。それともスピード、パワーともに上回る富岡が力を示すのか。

王者の長尾朋範は完全燃焼を求める

■京口紘人らと挑んだ大学時代の「一生の思い出」
県内有数のスポーツ強豪校に入学した長尾は考えた。高校から始めても遅くないスポーツは? ラグビー、ハンドボール……最初に見学したボクシング部で断り切れきれなくなったのが始まりになった。3年生になって全国大会に初出場。インターハイではベスト8に残ったが、国体では初戦敗退。卒業後は地元で専門学校に進むはずだった。

ところが福森三兄弟の次男で、高校時代は一緒に練習もした先輩・福森翔太(松山聖陵高、のちフラッシュ赤羽ジムでプロ3戦)に誘われ、特待生として大商大へ。関西学生リーグ戦で1年目から階級賞に選出され、次の年には主将の福森、1学年上の京口紘人らとリーグ戦の優勝に貢献。2014年12月、関東大学リーグ戦の覇者・日大との全日本大学王座決定戦に臨んだ。

フライ級の長尾の相手は坪井智也(現・帝拳)。直前の全日本選手権決勝で坪井に敗れた京口がマンツーマンで対策を授けてくれた。が、トップバッターで先勝した京口に続けず、福森が李健太(現・帝拳)に勝利するも、通算4-7で敗れた。それでも、チャーターしたバスで試合地の広島に乗り込み、全員で勝利を目指した一体感は「忘れられない一生の思い出」と感慨を込める。大学当時の後輩を「愚直に努力して、頑張る選手だった」と京口さんは振り返ってくれた。

就職して配属された首都圏で再びグローブをはめたのは、最初は体を動かすためだった。ジムに誘われるままプロに。「4回戦ぐらいなら」と高をくくっていたが、2連勝で迎えた3戦目で痛烈に2度倒され、“思わぬ”2回TKO負けを喫した。相手は現・日本バンタム級王者の梅津奨利(三谷大和スポーツ)。この負けを機に「自分がどこまで頑張れるのか、確かめてみたい」と本腰を入れた。

宇野武志トレーナーに師事し直し、真摯な指導、厳しい練習に食らいついてきた。「僕のことを僕以上に考えてくれて。あの人じゃなかったら、ここまで続けられなかった」。今年3月で31歳。「1試合1試合、引退試合のつもり」で戦ってきたという。その思いは変わらない。「自分が納得のいくところまで」。完全燃焼を求め、長尾はリングに上がる。(取材/構成 船橋真二郎)

※「ダイヤモンドグローブ」は10日18時の第1試合開始からFODでライブ配信される。

9月、長尾は村上勝也(名古屋大橋)を判定で退け、初防衛に成功

■自分を確かめるために
――2025年は4月にチャンピオンになって、9月に初防衛もして。どんな1年になりましたか。
長尾 そうですね……。やめどきというか、年齢のこともあって、もう、1試合1試合、引退試合のつもりでやっていて。もともとは自分が納得のいくところまでやろう、ということだったんですけど、急に状況が変わったんで……。責任感みたいなのを感じた1年、ですかね。

――責任感というのは、チャンピオンという立場に対して、ということなんですか?
長尾 チャンピオンというのもありますし……。僕がチャンピオンになったときが変な勝ち方になっちゃったんで。

――相手の小田切選手が肩の脱臼で棄権してのTKO勝ちで。
長尾 あ、そうですね。その責任感、義務感というか。ここで引退するのは違うよな、まだ終わってないな、みたいな。

――1試合1試合、引退試合のつもりで、ということは、その王座決定戦も、勝っても、負けても、という気持ちで臨んだ試合ではあって。
長尾 そうですね。それが、ものすごい激闘で、僕がもぎ取った、確実に僕がチャンピオンだ、みたいな勝ち方だったら、また気持ちは違ったのかもしれないですけど。

――その気持ちは初防衛戦の勝利で変わりましたか?
長尾 やれるだけのことはやって、結果は出たんですけど、まだ、ここじゃないかな、みたいな感じですかね。また試合が決まったら、勝てるように頑張ってやらないとなっていう。

――今、ご自身がチャンピオンということについては、どのような気持ちで?
長尾 チャンピオンという感じが、まだ自分のなかでしてないんですよ。正直、同じ階級のなかで、そこそこやると思ってるんですけど。世界チャンピオンを除いて。けど、自分がどのへんなのか、まだ分かってないというか。

――自分を測りかねている。
長尾 測りかねてますね。けど、自分を信じて、ある意味、勘違いさせてでもやってる感じですかね。まだもっといけるだろ、みたいな。半信半疑で(笑い)。

――半信半疑で?
長尾 はい。半信半疑で(笑い)。

――自分を確かめないことにはやめられない。
長尾 あ、そうですね。自分がどこまでできるのか、どこまで頑張れるのか、確かめてみたいと思って、プロでやったので。

――その自分を確かめる、測る相手として世界ランカーに勝ってきた富岡選手はいい相手なのではないですか?
長尾 そうですね。ほんとに。

――長尾選手にとって、どういう相手ですか?
長尾 試合を見る限り、過去最強の相手ですね。僕にないものを持ってる選手じゃないですかね。スピードもあるし、パンチもあるし、華もあるし、面白い試合をしますよね(笑い)。

――対照的、正反対な印象?
長尾 ほぼほぼ反対というか。それは自分も思いますし、相手もそう思ってると思います。

宇野トレーナーのミットに左フックを打ち込む

■長所は「こだわり、プライドがないところ」?
――富岡選手とスパーリングをしたことは?
長尾 2回ありますね。(2024年10月に)富岡選手が苗村(修悟=SRS)選手とやる前と(昨年4月に)僕が小田切選手とやる前の1回ずつ、だけですけど。

――どう感じましたか?
長尾 巧いなって、一番はセンスを感じました。勘が鋭いというか。

――その対照的な相手に対して、どんな試合をイメージして臨みますか。
長尾 どうかな……。富岡選手の光る部分、そこは消していきたいですね。

――相手の長所を消す。
長尾 そうですね。まったく違うものを持ってる選手同士、僕の長所と富岡選手の長所、どっちが勝つか、みたいな試合になると思ってるんで。

――長尾選手自身の長所を解説してもらうと?
長尾 こだわりとか、プライドがないところだと思います。

――こだわり、プライドがないところ??
長尾 そうですね(笑い)。まあ、倒して勝つ、カウンターで勝つとか、ボクサーにはそれぞれ、こだわりがいろいろあると思うんですよ。憧れのボクサーがいて、得意なパンチがあって、これで倒すぞ、これで勝つぞ、みたいなのがあると思うんですけど。僕は、まあ、好きなボクサーとかはいますけど、得意なパンチとかも特にないんで。逆に長所かな、みたいな。

――自分の得意をぶつけるんじゃなくて、相手の得意をつぶす、長所を消すのが長所というか。
長尾 プロだと相手が1ヵ月とか前から決まってるじゃないですか。その相手に合わせて、自分がどう戦うかを考えて。

――相手に応じて戦う。
長尾 そうです。トレーナーが相手の試合の映像を見てくれて、こうやろうと思うんだけど、と言ってくれることに、僕はこう思うんですけど、みたいな話もさせてもらいながら。

――宇野トレーナーと意見を出し合いながら、一緒にイメージをつくっていくような。
長尾 そんな感じで。みんな、やってると思いますけど(笑い)。

――1試合1試合、というのは変わらないと思いますけど、あらためて、次の試合に懸ける気持ちを言葉にすると?
長尾 自分が持ってるものを全部使って、何が何でも勝つ、ですかね。まあ、そのぐらいの相手だと思ってるんで。

――ある意味、それが長尾選手のボクシングですか?
長尾 あ、そうですね。確かに。

――自分が持っているものを最大限に活かして、どう使うか、どう組み合わせるかを考えて、この相手にどう勝つか。
長尾 そうです。もう(ボクシング)歴が長いんで、同じようにキレイなボクシングをしても、いくらでも巧い相手、強い相手はいるのは分かってるんで。じゃあ、どうすれば勝てるかを探して、考えながらやってるつもりです。

――アマチュアで強い選手をたくさん見てきたでしょうしね。
長尾 めちゃくちゃ上の人たちを見てきました。

――身近には大学の1学年上の京口さんもいたし、試合でも。
長尾 やってますね(笑い)。大学王座決定戦では坪井選手に負けて、リーグ戦では谷口(将隆=現・ワタナベ)さんに負けたし。それこそ、今回(2月10日)のメインの川浦(龍生=現・三迫)さんにも負けてますし。

――川浦選手は徳島で、全日本選手権の四国ブロック予選ですか?
長尾 はい。2回やって、2回とも負けました。

――そういうなかで、どう勝つかをずっと考えてきた。
長尾 そうですね。まさに。

スティックミットを持った宇野トレーナーが長尾を追いまわす

■転機になった梅津奨利との3戦目
――自分がどこまで頑張れるか、確かめてみたいからプロでやった、ということでしたが、大学を卒業して、どのような経緯でプロに?
長尾 大学でボクシングは引退して、普通に社会人で働いてたんですけど。

――就職で東京のほうに?
長尾 埼玉なんですけど。希望は西のほうで、まったく違うところに配属されて(笑い)。

――その時点でボクシングに未練はなく?
長尾 まるっきり忘れてました。何の未練もなく。社会人の不安しかなかったです。

――縁もゆかりもない、知らない土地で。
長尾 ほんとにそうです。知り合いも誰もいないんで。メーカーの営業で、埼玉県内をぐるぐる毎日5時間、車で回って……。人見知りなほうなんで、休みの日に遊びに行くこともなかったし。最初は体を動かしたいなと思って、フィットネスのジムで筋トレしてたんですけど、面白くなくて。ボクシングジムを探し始めるんですけど。いくつか見学して、ジムの雰囲気的にもやりやすそうで、交通の便が一番よかったのがここでした。

――練習するうちに、やってみたいとか、少しずつ気持ちが?
長尾 いや、まったくないですね(笑い)。最初は土日会員でやってて、そこから対人練習は好きなんで、スパーリングとかはやってたんですけど。プロでやらないか? みたいにトレーナーさんに誘われて。4回戦ぐらいなら仕事をやりながらでもやれるか、みたいな感じでした。

――それが宇野トレーナーですか?
長尾 いや、また別の方で、そのトレーナーさんに最初は見てもらってて。そういう軽い気持ちだったんで、今のフライが僕の適正で、2戦目まではS・フライだったんですけど、3戦目の話がS・フライとバンタムの中間ぐらいの契約ウェートで来て。じゃあ、いつもより減量がラクだな、ぐらいでやって。今の日本バンタム級チャンピオンの梅津選手にぶっ倒されました(笑い)。

――その試合は覚えていますよ。2回に最初は右アッパーで倒されて。
長尾 あ、そうです。まあ、1ラウンド目はアウトボクシングで様子を見てて、梅津選手も様子見というか、エサをまいてたのかもしれないけど、あ、こういう感じね、これなら、と思って。で、僕の1戦目、2戦目が塩試合だったんですよ。

――倒しに行った?
長尾 倒しに行きましたね。2ラウンド目にファイターで行ったところに右アッパーをスコーンともらって、気づいたらヒザをついてて。すごい焦っちゃって。やべっ、倒し返さなきゃ! って、振り回した右に右を合わされて、ドーンと。立ち上がったんですけど、そのままストップされて。いや、ストップしてもらって、よかったです(笑い)。

――強かった?
長尾 めっぽう強かったです(笑い)。でも、4回戦で、しかもKOで負けるって、マジか!? と思って。まあ、それこそ、仕事もあるし、週3とかしか練習してなかったんですけど。これはしっかりやって、ちゃんと試さないと、と思って。

「燃え尽きるぐらい」の言葉通り、精力的に動いていた

■長尾の求めるゴールとは
――負けたことで火がついて、本気で自分を確かめようと。
長尾 そんな感じです。あれが転機になったというか。逆にものすごく練習してて、同じように負けてたら、ショックがデカかったと思うんで、よかったかもしれないですけど(笑い)。

――しっかり練習していたら、結果は分からなかった?
長尾 とは言えないぐらい、強かったですね。富岡選手が過去最強と言いましたけど、梅津選手を除けば、ですね(笑い)。

――そもそも梅津選手は階級が上で、同じ階級で考えたら(笑い)。
長尾 そうですね(笑い)。けど、僕がちゃんと練習をして、試合に臨んで、これ、どうしようもできないな、みたいな強い相手とやったら、これ以上やっても、と思えると思うんで。

――究極を言えば、そういう相手、試合を求めて。
長尾 そうですね。そこまでできれば、納得できるかもしれないです。

――梅津選手に負けて、仕事も辞めたんですか?
長尾 いえ、梅津選手に負けたのが(2020年)12月で、10月に転職が決まってて。ボクシングのための転職じゃなくて、前の仕事が嫌で転職して。で、現場仕事なんですけど、12月に新しいところで働き始めて、10日後ぐらいが梅津選手との試合でした(笑い)。

――その仕事は今も?
長尾 一昨年の12月で辞めました。体もしんどいし、ケガとかも危ないんで。今はスポーツ社員で受け入れてくれる会社に入って、飲食で。ボクシングに協力的で、融通も利かせてもらえるんで。

――思いきり練習して、試合に臨めると。
長尾 はい。練習から思いきり、それこそ、燃え尽きるぐらいやって。梅津選手との試合後から宇野さんにお願いしたんですけど、厳しくやってくれて。で、僕がだらしないんですよ。できたのは挨拶ぐらいで、脱いだ靴はそろえて下駄箱に入れろとか、そういうところが試合に出るぞって。僕以上に僕のことを考えてくれて。あの人じゃなかったら、ここまで続けられなかったし、練習でも追い込めなかったと思うんで。

――燃え尽きるぐらい練習で追い込んで、試合に臨んだら、そういう結論を出せるかもしれないし。
長尾 出せないかもしれないし(笑い)。まあ、自分が納得のいくところまで。

――とにかく完全燃焼、やりきると。
長尾 そうですね。

――もう立場とか、肩書きとか、今は関係ないですか。
長尾 正直、関係ないですね。自分の最高のところがどこなのか、確かめられるような強い相手とやって、勝っても、負けても、自分が納得できたらいいのかな、と思ってます。

――それが次の富岡選手かもしれないし。
長尾 そうじゃないかもしれないし(笑い)。分からないですね。やってみないと。

 

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