11.3東日本新人王決勝戦発表会見 出場選手の意気込み
2024年10月5日 16時45分
2024年10月5日 14時16分
8日、東京・後楽園ホールで行われる日本S・ウェルター級タイトルマッチはベテラン対決となった。試合の前日に40歳の誕生日を迎える王者の出田裕一(三迫/18勝9KO16敗1分)、39歳の挑戦者で同級3位の加藤寿(熊谷コサカ/12勝8KO12敗2分)、ともに1年違いのプロデビューから20年近く、それぞれ波瀾万丈のボクサー人生を歩んできた。
プロ叩き上げの加藤のデビューは2006年6月28日。21歳になる2日前だった。2-0の判定勝ち。そこから勝ちと負けを繰り返しながらの16年、どうしても超えることができなかったのがランカーの壁だった。2021年5月、通算5度目の日本ランカー挑戦もTKO負け。それでも舞い込んできた6度目の直前に左足アキレス腱を断裂し、試合は中止となる。仕切り直しの一戦は、2022年6月29日、37歳になる誕生日の前日に組まれた。
当時はルールとして定年制があり(1年後の2023年7月に撤廃)、勝ってランキングに入らなければ、自動的にライセンス失効になる。崖っぷちの加藤は「今までで一番、開き直れた」と劇的なTKO勝ちで踏みとどまった。
この間には2度の引退。1度目はジムで指導していた中学生の教え子からの「加藤さんの試合が見たい」の声に、約3年半のブランクをつくった2度目は旧知のジムOBに励まされた。昨年は初のタイトル戦(暫定王座決定戦)、挑戦者決定戦に敗れ、現在2連敗中。このチャンスに引け目を感じるところもあったが、小坂裕己会長に背中を押された。自分だけでは続けていなかったからこそ、恩返しのベルトを――。その思いが加藤を突き動かす。
自身に勝って、暫定王者となった中島玲(石田)、挑戦権を勝ち取った小林柾貴(角海老宝石)、2人に勝ってきた王者だから、「余計に大きく見える」と加藤。「自分を信じ切れるか」をポイントに挙げ、これまで支えてくれた人に「ベルトを巻く姿を見せたい」と表情を引き締めた。
埼玉県北部の熊谷市で約56年の歴史を刻んできたジムは、元WBA世界J・ミドル級、元日本ミドル級王者の工藤政志、元日本J・フェザー級王者の江藤清一を輩出してきた。工藤が世界王座を失った1979年10月24日以来、45年ぶり3人目、そして元日本ライト級王者の先代・小坂克己会長が亡くなり、1998年に代替わりしてからでは初の王者を狙う。(取材/構成 船橋真二郎)
■どこまで自分を信じ切れるか
――2度目のタイトルマッチです。やはり1度目とは気持ちが違いますか。
加藤 そうですね。もちろん、2度目のチャンスをいただけたのは嬉しいですし、ありがたいですし。前回は敵地(大阪)で暫定(王座決定戦)だったのが、今回は後楽園ホールで正規の王座に挑戦ということなので。まあ、嬉しさ半分、怖さ半分ですかね(笑い)。
――半々ぐらいなら、いい緊張感なのでは?(笑い)
加藤 でも、怖さのほうがデカいですかね(笑い)。不安というか。もともとの性格的にネガティブなので、あまりいい方向に考えられなくて。僕は大体、負けるイメージから入っちゃうんですよ。特に出田選手、あまり穴が見えないというか。すごく強く、大きく見えますね。
――それは加藤選手が負けた中島選手、小林選手に出田選手が勝っていることもありますか。
加藤 ありますね。自分がコテンパンに負けてる相手に、あれだけきっちり勝ってるので。僕、両方とも現地で見てるんですよ。いや、強いな、と思って。余計に大きく見えます。
――では、試合までに相手が大きく見えている自分をどう乗り越えていけるか、ですね。
加藤 はい。自分を信じる作業というか。いいペースで試合を進めてても、一発で倒されたり、肝心なところでポカしたり。自他ともに打たれ弱いことを認めてるんで、自分が一番、自分を信用できてないんですよ。自分を信じて、自分のボクシングを貫けるように。試合までに準備できたらなと思います。
――これまでも、自分を信じられる自分をしっかりつくり上げることが、試合までの加藤選手の戦いということなんですね。
加藤 そうですね。だから、今回も、どこまで自分を信じ切れるか、ですね。
■超えるべくして来たチャンス
――加藤選手と言えば、今はルールが改正されましたけど、定年制の……。
加藤 ああ、よく言っていただきます(笑い)。
――ギリギリのところでランカーに勝って。それも、その前には大きなケガがあって、延期になった試合で。あれが6度目だったんですよね?
加藤 はい。6度目のランカー挑戦です。
――何度も挑んで、超えられなかった壁を超えてきて。あのときと同じような気持ちをつくり上げることがひとつのカギになると思うんですけど。
加藤 ああ、そうですね。あのときはケガもあって、定年があって、良くも悪くも開き直るしかない状況で、特殊と言えば特殊だったんですけど。今までで一番、開き直れた試合だったので。
――それまでとはまったく違った。
加藤 違いました。いつもはネガティブな気持ちがあったりするんですけど、あのときは、そのネガティブな気持ちもひっくるめて、プラスに持っていけたというか。ほんとに後がない状況で、負けたら終わりなので、やるっきゃねえし、ダメならダメでしょうがないじゃないけど、とにかく悔いを残さないようにやろう、その気持ちだけでした。
――そうやって超えられなかったものを一度は超えた経験があるわけで。
加藤 はい。超えるべくして来たチャンスだと思っているので。あのときと似たような精神状況をつくって、今回もリングに上がらなきゃなと思います。
■「王者には穴がない」
――先ほど、出田選手にはあまり穴が見えないと。戦う相手として、どのように見ているか、もう少し噛み砕いていただくと。
加藤 まあ、穴がないというのは、自分のボクシングをすごく理解されてて、それを貫き通すところですね。大体、みんな、ちょっとでもうまくいかないと変えようとかがあるんですけど。あの方はそれがなくて、自分のボクシングを淡々と1ラウンドから10ラウンドまで続けるところが、穴を見せてくれないというか。角度を変えたら、穴があるとは思うんですけど、自分のボクシングに徹することで見せないようにしているというのが個人的な印象です。
――ある意味、もしかしたら加藤選手には、出田選手が自分を信じ切れているボクサーに見えている。
加藤 はい。だから、技術的というより、精神的に強いところが出田さんの一番の武器なんじゃないかなと。だからこそ、自分も自分を信じ切って、戦い抜ける準備をしないといけないと思いますし、精神的に負けないようにつくり上げたいと思ってます。
――イメージする試合展開は?
加藤 多分、みなさんが予想する通りだと思います。お互いのやりたい距離が、お互いの嫌な距離だと思うんですよ。向こうは近距離、僕は距離を取って、どっちが自分の距離で多く戦えるか。でも、逃げ切る(距離を取り切る)のは難しいと思ってて、どこかで近い距離になると思うんですよね。そこでいかに被弾せず、また自分のペースをつくれるかがカギになると思います。
――スパーリングは出稽古を中心に?
加藤 そうですね。やっぱり、うちのジムにデカい選手はいないので、大体、どこかしらに出稽古に。まあ、もともとスパーリングはそんなに多くやるほうではないんですけど。
――それは環境的なこともあって?
加藤 そうですね。もともとパートナーは少ないですし、都内のほうに出ていくとなると、僕も仕事の都合があるので。
――時間的にも厳しいところが。
加藤 はい。頻繁には行けないですね。でも、高崎ジムとか、北関東の選手にお願いしたり、プロとアマチュア問わず、近い距離で勝負したがる出田さんと似てるファイター型のデカい選手とやれてるので。できる準備はできてると思ってます。
■出田をリスペクト
――出田選手とは年齢も近くて、長く現役で続けてきた者同士ですが、どんなふうに見てきた選手ですか。
加藤 11連敗を喫しても、諦めることなくチャンピオンになった方なので。もう尊敬ですよね。
――共感するというよりは。
加藤 はい。一度だけ、スパーリングをやらせていただいたことがあったんですけど、黙々とジムワークをされてる姿が印象的で。で、出田さんは一度も気持ちが折れたことがないと聞いたんですよ。僕は折れてるんで。自分と境遇が似てるとか、言っちゃいけないぐらい、すごいなと思います。
――ここまで加藤選手がボクシングを続けてきた原動力というか、何が大きいですか。
加藤 原動力か……。やってきた結果としてベルトがほしいな、というのは。まあ、1回、引退して……、正確には2回なんですけど、3年半ぐらい離れた時期があって、周りの方たちといろいろ話して、後押ししていただいて、復帰しようとなったので。だからこそ、やりきって終わりたい、というのが強いんですよね。後悔を残したくないという気持ちですかね。
――3年半ぐらい離れたのが2回目の引退だと思うんですけど、1回目は?
加藤 あれは(加藤)壮次郎さんとやった年(2012年)かな? 壮次郎さんとの試合がA級初戦で、ランカー初挑戦だったんですけど、肝心なところで落としてしまって。その次に6回戦で藤中(周作)選手とやるんですけど、バッティングで引き分けて、モヤモヤしてるときに、ちょうど中学を卒業したときから働いてきた今の会社(精密板金加工の会社)が代替わりをして、今の息子さんの代になるときだったんで。仕事の状況も変わりそうだったし、いいタイミングかなと思って。そこで1回。
――それが、もう一度と思い直したのは?
加藤 当時からジムの子どもたちの練習を見ていたんですよね。で、この(ちょうど練習をしていた6回戦の)長谷川優太と同い年の中学生の女の子なんですけど、もう試合はしないの? と訊かれて。自分の練習を始めたら、君たちの練習は見れなくなるかもしれないよと言ったら、それでもいいから、加藤さんの試合が見たいと言ってくれて。そこまで子どもに言われちゃーね、と思って。じゃ、やるかって(笑い)。
――その子が気持ちを動かしてくれたんですね。
加藤 自分が好きで続けてるんですけどね。でも、自分のためだけだったら、ここまで続けられないというか。やっぱり、試合を見たいとか、頑張れとか、応援してくれる方の存在はすごくデカいですよね。
■恩返しのベルトを必ず…
――3年半ぐらい離れて、戻ったときも同じような?
加藤 そのときは(小坂裕己)会長のお母さんが亡くなられたタイミングで。もう辞められた方たちも集まって、みんなで話す機会があったんですね。で、やりたいんじゃないの? という話になって。まあ、やりたい気持ちはあったけど、環境的に上を目指すのは難しいのかなとか、いろいろ思ってて。でも、できる協力はするから、やりたいんだったら、やったほうがいいよと、みんなが言ってくださったので。もう少し自分の気持ちに素直になってもいいのかな、と思って、復帰しました。
――ジムの先輩、OBの方たちに背中を押されて。
加藤 そうですね。まあ、どことなく、やりたいというか、悔いが残ってるのが分かったんだろうなと思って。今もちょこちょこジムに来てくださって、トレーナーをしてくれる方々もいますし。そういうのを経験してるからこそ、繰り返しになりますけど、悔いを残さないように。で、自分が好きでやってることで応援してくださる方がたくさんいるので。やっぱり、ベルトを巻く姿を見せたいですよね。それが恩返しになると思うので。
――今でもジムには、こうしてボクシングを頑張っている子どもたちがいて。その女の子のときと同じように何かを見せたいという気持ちもあるのでは?
加藤 そうですね。(ジムで)頑張る姿もそうですし、頑張った結果として、こういうことがあるよというのを、子どもたちにも、下の子(後輩)たちにも見せられたらいいんですけど。年齢的にいつまでもできるわけじゃないので。
――そういうチャンスでもある。
加藤 まあ、今回の挑戦に関しては、自分ではいろいろ思うところはあって。世間的には、連敗中の選手がタイトルマッチ? とかって、きっと出てくると思うので。出直しの一戦に勝って、浮上を狙うべきなんじゃないかと僕個人は思ってたんですけど。チャンスなんだから、あまり周りの声は気にしなくてもいいんじゃないか、と会長に言っていただいて、自分も滅多にないチャンスを手放すのはもったいないという気持ちが募ったので。
――前回は大阪で、会場に足を運べなかった方もいらっしゃると思いますけど、今回は後楽園ホールになりますね。
加藤 そうですね。勝って、みんなと一緒に喜びたいですね。で、会長にはずっとお世話になってきて、会長の代になってから、まだジムにベルトがないので。必ずものにしなきゃな、と。
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