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「2+3は?」絶妙な声かけで3年ぶり勝利 ニューサンダー照屋と與那城会長の師弟コンビ

2023年7月27日 15時59分

「2+3は?」「5です」。「2+3は?」「5です」。

 與那城(よなしろ)信一会長が笑顔で問いかけ、ニューサンダー照屋(琉豊)が答える。終盤6ラウンド、7ラウンドの開始直前の2度、コーナーでやり取りがあった。

「(照屋が)興奮していて、“行きたがってる”のが分かったんで。1回、落ち着かせようと思ったんですよ。そしたら、ちゃんと答えたんで、あ、大丈夫だと思って(笑い)」(與那城会長)

 行きすぎず(攻めすぎず)、丁寧に。我慢して、自分を抑えること。それがテーマだった。

沖縄・琉豊ボクシングスタジオの與那城会長と照屋

 7月11日、東京・後楽園ホールで行われた大橋ジム主催の「第102回フェニックスバトル」のセミファイナル。沖縄から遠征の28歳、ニューサンダーこと照屋雄太は、41歳の大ベテラン、元日本S・フェザー級王者の岡田誠一(大橋)との61.0キロ契約8回戦に3-0の判定勝ち。実に3年ぶりとなる勝利をあげ、戦績を8勝(4KO)11敗1分とした。

「岡田選手みたいな強い選手に勝てたことが嬉しいです」(照屋)

 この間、後楽園ホールで木村蓮太朗(駿河男児)に4回TKO負け、大阪で下町俊貴(グリーンツダ)に3回TKO負け、沖縄でシーサー皆川(平仲BS)に6回判定負け、静岡で湯川成美(駿河男児)に2回TKO負けと4連敗。が、久しぶりの勝ちより何より「強い選手に勝てたことが嬉しい」と何度も繰り返した。

 下町は先頃、王座決定戦を制して日本S・バンタム級新王者になった実力者で、木村、皆川、湯川の3人は高校、大学でアマチュア経験のある期待の選手。勝てない時期が続き、苦しかったのではないか、と尋ねると「自分でしっかり選んできたので後悔はないです」と応じた。下はS・フェザー級、上はウェルター級まで対応し、対戦相手として“選ばれた”のが実際のところでも、あくまで自分の意志で試合を受けてきた、という照屋の矜持だろう。

「ずっと強い選手とやることを貫いて、芯を曲げずにやってきて、やっと今日、実を結んだのが嬉しいです」

 字面から受ける力強い印象とは違い、「ウフフ」と照れたように笑いながら、どこまでも柔らかなトーンで話す。人柄がにじみ出た。

 1ラウンドの最初から「丁寧に、丁寧に」「行きすぎるな」と與那城会長の声が盛んに飛んだ。照屋がコーナーに戻ると「勝ちたいんだろ?」と問いかけてから「丁寧に」「雑になるな」「行きすぎるな」と念を押す。その繰り返しだった。終始、圧力をかけてくる岡田に対し、照屋は脚を使ってボクシング。ジャブからコツコツとヒットを重ねては、また脚でかわした。

 下町戦の半年後、2021年10月にジムを移籍。サンダーからニューサンダーに生まれ変わった照屋とコンビを組むことになった與那城会長が言う。

「持ってるものは悪くないんです。でも、感情が先に出て、行きすぎて、自分で(試合を)壊してしまっているところがあった。で、終わったあとに『しまった……』っていう。だから、今回はどんなことがあっても丁寧にやろう、と」

「信頼できる会長」とそう話し合い、臨んだリング。照屋は「ちょっと(約束を)破っちゃって」と頭をかいた。早くも決壊しかけたのは2ラウンド。集中打を浴びせ、見せ場をつくった照屋が「ウォー! ウォー!」と突然、吠えた。

「あれは自分に負けないぞって、自分に対して。熱くもなったんですけど、岡田選手、気持ちが強くて、顔色を変えずに来るんで、めっちゃ怖くて。どうしても自分に負けてしまいそうで(苦笑)」

照屋は自分を抑え、丁寧なボクシングを心がけた

 岡田は、その2ラウンドに左目の上を切り、6ラウンドには右目上もカット。鼻血も出し、血まみれになり、顔を腫らせながらも闘志は衰えない。與那城会長の声かけにもアクセントが加わった。

 照屋のパンチが当たれば、「絶対に(岡田の)気持ちは折れないんだから、倒しに行かなくていいよ」。岡田のパンチを被弾すれば、「どうせもらうんだから、焦るな」。手綱を引き続けた。

 岡田サイドから対戦オファーがあったとき、照屋は喜んだという。「岡田選手、カッコいいじゃないですか。ハートが強くて。昔からずっと見てきて、毎回、心惹かれる試合をするので尊敬してました。できることが嬉しかった」。與那城会長は「ああいうファイターが好きで、憧れの選手だと。だから、ほんとは脚を使うのを嫌がってたんですけど、お前は違うから」と言い聞かせてきた。

 憧れの存在と真っ向勝負をしたい誘惑と、強さを知っているからこその自制。その間でも照屋は揺れ続けた。そして、迎えた終盤の與那城会長の「2+3は?」である。

「もう、今日の朝、何食べた? でも何でもよかったんですよ。俺の言っていることを聞いて、答えることで落ち着いてくれたら。でも、掛け算とか、難しいことを言ったら、こいつ、え? え? ってなるから。そうなったら、倒されますからね(笑い)」

 照屋も「いや、会長、倒されてますねえ」と屈託なく笑う。いいコンビだ。「めちゃくちゃ好きな会長と組んで、自分から崩れない丁寧なボクシング、ちょっとだけ形になって。ましてや強い岡田選手に勝てたので、とても嬉しいです」。そんなボクサーの目指す今後は?

「これからも変わることなく、強い選手とやって、本物のボクサーになりたいです」

 最後はキリッと決めたと見せて、「ウフフ」と照れたように微笑むのだった。(船橋真二郎)

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