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逆境のフルラウンドはドネア戦につながる経験

井上尚弥プレイバック 2016.5.8カルモナ戦 
逆境のフルラウンドはドネア戦につながる経験

2020年5月8日 12時38分

 WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者、井上尚弥(大橋)はちょうど4年前の今日、WBO世界S・フライ級王座の2度目の防衛戦で指名挑戦者のデビッド・カルモナ(メキシコ)を有明コロシアムに迎えた。

 井上は2014年暮れ、2階級アップの離れ業でWBO・S・フライ級王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦し、ベテラン名王者を2回KO勝ちで粉砕してみせた。拳の手術をへて1年後、ワルリト・パレナス(比)をこれまた2回TKOで一蹴して初防衛に成功。S・フライ級に上げた井上は手の付けられないほどの強さを発揮し始めていた。

 次はどんなすごいKO劇を見せてくれるのか─。大きな期待が集まる中、決戦のゴングは打ち鳴らされた。

井上は初回から右強打を打ち込んでいったが…

 井上は初回から右ストレートを躊躇なく打ち込む積極的な立ち上がりだ。軽快な動きから打ち込むパンチはどれもシャープ。1、2回で早くもカルモナの顔が何度もひしゃげた。これでダウンしない挑戦者の打たれ強さには感心するばかりだが、そう長くはもたないだろうと感じさせた。

 ところがリング内では異変が起きていたのだ。試合後に井上が打ち明けた。

「2(回)で若干痛めて、全然使えるかなと思って(セコンド)言わなかったんですが、6(回)でちょっと強く打つときついなと思った」。

 井上は3、4回も余裕の試合運びをしているように見えながら、実際には右の手数が減り、左中心のボクシングを余儀なくされていた。それでも5回には再びテンポを上げ、6回には連打で圧倒。しかし、とどめを刺す右は打ち込めない。

 6回に拳を悪化させると7回以降、よりフットワークを使い、左一本でカルモナをコントロールしながら、右を柔らかいボディに打ち込んでいった。右の強打が使えない上に、左ばかり使っているうちに左拳にも痛みが走る。それでも相手にしっかりダメージを与えていくのだから驚きだ。

最終回に見せ場、ダウンを奪った

「あのまま終わるのは嫌だった。見せ場をつくりたかった」

 迎えた最終回、井上は粘るカルモナとの打ち合いに身を投じた。ボディを効かせて挑戦者を後退させると、痛めていた右ストレートを叩き込み、ついにカルモナからダウンを奪う。立ち上がって闘志を見せるメキシカンにさらに猛攻を浴びせ、レフェリーストップもあるかと思われたところで試合終了のゴングが鳴った。

 スコアは118-109が2人、残る一人が116-111。驚異的な打たれ強さを発揮したカルモナは「井上は偉大な王者。今夜の私ほど井上を苦しめたファイターはいない」と怪物を相手に12ラウンド戦い抜いた誇りを口にした。

試合後はガッツを見せた挑戦者と握手

 この試合は井上のベストバウトの一つに数えられないにしても、最も貴重な試合の一つになったと言えるのではないだろうか。のちに井上は「あの試合は楽しかった」と逆境の中でファイトしたフルラウンドの攻防を振り返ったものだ。

 なにしろKO勝ちの多い井上は、これが田口良一戦以来2度目の判定決着で、12ラウンド戦うのは初めてだった。試合中に拳を痛めたのはプロ3戦目に次いで2度目だったが、世界戦という大舞台で急なアクシデントに対処した経験は大きかった。

 井上がキャリア3度目の判定決着を迎えるのは、19年11月のWBSS決勝、ノニト・ドネア戦である。このときは2回に右眼窩底骨折を患いながら、ドネアに悟られないようにファイトして、11回にダウンを奪ってハンチ勝ちを手にした。年間最高試合に輝いたドネア戦の冷静かつ熱い戦いぶりの土台には、あのカルモナ戦があったのだ。

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