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10年で8人が世界王者の新鋭賞受賞 三代大訓の究極“準備力”とは

2021年1月30日 9時35分

 新型コロナウイルスの影響で、海外から選手を招へいすることが困難になり、日本人同士の好カードが多数実現した2020年。1月14日、元WBC世界バンタム級暫定王者の井上拓真(大橋)と東洋太平洋同級王者でIBF同級4位の栗原慶太(一力)をメインに据えた興行(井上の9回負傷判定勝ち)から幕を開けた2021年も、元IBF世界S・バンタム級王者でWBA同級4位の小國以載(角海老宝石)と元東洋太平洋・日本同級王者の和氣慎吾(FLARE山上)の8年ぶりとなる再戦(4.28後楽園ホール)が発表されるなど、この状況は当面続きそうである。

 未曾有の1年。日本人対決で最大級の戦果を挙げたひとりが、元WBO世界S・フェザー級王者の伊藤雅雪(横浜光)を11戦目(10勝3KO1分)で破った東洋太平洋S・フェザー級王者の三代大訓(ワタナベ)だろう。

世界ランキング入りもはたした三代

 先頃1月28日に発表された2020年の年間表彰では『新鋭賞』にも選出されている。この賞からは宮崎亮、山中慎介、井上尚弥、村田諒太、田中恒成、井上拓真、比嘉大吾と、ここ10年の受賞者13名から8名がのちに世界王者となっており、前回2019年の中谷潤人(M.T)が2020年11月、WBO世界フライ級王座を奪取したのは記憶に新しい。

 最新の世界ランキングで、三代は主要2団体(WBC13位、IBF15位=いずれもS・フェザー級)でランク入り。今後の主戦場をライト級と明言し、現在、世界的にもホットな階級で、さらなる飛躍が期待される。

 4年前、2017年3月にB級(6回戦)デビュー。中央大では主将を務め、57戦(41勝16敗)のアマチュアキャリアを残しているが、ボクサーとして決して恵まれた土壌に育まれたわけではなかった。故郷の島根・松江工業高時代、県下に同学年のアマ登録選手は三代以外におらず、練習していた『シュガーナックルボクシングジム松江店』にも同世代の練習相手がいなかった。

 高校時代は動画サイト、上京した大学では高校で実績を残した選手たちを間近に感じながら、自分で考え、研究し、取り入れ、アレンジし、さらに高める。そうして、ここまで来た自負がある。

 伊藤戦の直後、三代は殊勲の勝因に「準備力」を挙げていたが、そのひとつが試合のたびに作成するノートだ。

「例えば、伊藤選手のいい所、悪い所、こういう時にはこういうことをしがちとか、気になったことを全部箇条書きにしていく。映像をめっちゃ見て、試合の大体3週間前ぐらいにやるんですけど、それを書き出した上で、今度は試合をシミュレーションして、それもノートに書いていくんですよ」

 最も綿密にシミュレートするのは「入りの1ラウンド」。特に思い通りにいかないケース、予期せぬハプニングなどを「めちゃくちゃ細かく」想定し、「この狙いを外されたらこう」「こうなった場合はこう」と、試合展開をさまざま思い描き、すべて書き出していく。そして、最後に「特に大事なことを1ページに」まとめる。

「それで、試合当日の朝におさらいして、控え室に入ってから見て、アップの前に見て、入場直前にまた見て、『意識すんのはこれだぞ、忘れんなよ』。で、『よし、レッツゴー』と」

頭脳的な試合運びで“大物”伊藤から勝利を奪った

 周到かつ地道な作業を自らに課すようになったのは、4戦目の仲里周磨(ナカザト)戦から。プロで初めての日本人対決を前に「ここで負けたら、自分のキャリアは終わる」と、危機感を持って臨んだ分岐点となる試合だった(三代がダウン応酬の熱戦を制して判定勝ち)。

 この“仕上げ”の作業は、試合まで4ヵ月の練習で、三代の表現を借りれば、自分を「伊藤雅雪基準に適応させた」手応えがあるからできたこと。あらためてJBC公認グローブ5種類すべてを試し、プロモーター指定のグローブの使用を拒否して、「一番感触のよかった」ウイニングを選択したのと同じく、「少しでも勝つ確率を上げるため」に、伊藤の特徴を踏まえ、自分がやってきたこと、リングでやるべきことをしっかり頭と心に刻み込んだ。

 そんな三代がプロ転向時、アマ時代の「ぴょんぴょん跳ねる」ようなフットワークから重心を落とし、「プロ仕様に変えようと参考にした」ひとりが伊藤雅雪だったという。

「それまでは、速く動くために爪先で動いていたんですけど、伊藤選手を見て、ベタ足で動いていることに気づいて、(伊藤の)フォームを真似してみて、『あ、ベタ足っていいな』って感じて、取り入れました」

 大学時代にスパーリングパートナーを務め、「憧れ」と公言してきた伊藤は、プロとして土台をつくり上げる上でも大きな存在だったのである。

「僕の中で憧れだったし、デカい存在だったし、お手本にしたところもある“自分のオリジナル”に勝って、とんでもない自信を手に入れた実感があります」

 そう語る一方、準備してきたことを「出しきれなかった」の思いも残った。今回の最大のミッションは「伊藤雅雪を超えること」。が、もうひとつ「自分の殻を破ること」、つまり「自分を超えること」をテーマにしてきた。

「内容は正直、まだまだでしたけど、伊藤選手に憧れていた自分は、超えることができたと思います」

 対戦相手として伊藤を強く意識し、伊藤に勝つことだけに力を注いできた4ヵ月で、確実にレベルアップした自分がいる、とも言った。

「でも、その“まだまだ”はまだ見えてない状態、これから頑張ればできるっていう“まだまだ”じゃなくて、僕の中で『これは』っていう確かな手応えをつかんだ状態での“まだまだ”なんですよ」

 だからこそ、2021年も「この流れを継続して、強い相手とやっていきたい」という。それが自分自身の成長、飛躍につながる、と。

「僕が見てもらいたいのは『まあ、三代が勝つでしょ』っていう試合じゃなくて、『いや今回は三代、厳しいでしょ』みたいな相手に、どんな準備をして、どう勝つのか。そこを求められて、そういう試合を楽しみにしてもらえる選手になりたいし、その相手はもう日本上位ランカーとかじゃないですよね」

 もちろんターゲットはひとり。伊藤戦後のリング上からも対戦を呼びかけたライト級3冠王者(日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック)の吉野修一郎(三迫)。ラブコールが実るかは今後の動向を見守るほかないが、まだ海外との行き来が難しい状況下、少なくとも相手のメリットになる、希少な中量級の世界ランカーの立場はつかんだ。

 高校では最後のインターハイ・ベスト8、大学では1年時の全日本選手権ベスト8が最高成績で、ベスト4(3位)以上に授与されるメダルをもらったことがなかった。それがプロ転向4年弱で東洋太平洋のベルトを巻き、元世界王者に勝利した。

「何もない田舎の小っちゃなボクシングジムで始めた僕が、どこまで行けるのか。僕自身、楽しみにしてますよ」

 まだプロデビューしたばかりの頃、そう言って目を輝かせていたボクサーが、またひとつ階段を上がった。

(2020年12月30日・電話取材/船橋真二郎)

■直近10年の『新鋭賞』受賞者

2010年 亀海喜寛(帝拳)、宮崎亮(井岡)★
2011年 山中慎介(帝拳)★
2012年 五十嵐俊幸(帝拳)☆ 井上尚弥(大橋)★
2013年 村田諒太(三迫=当時)★
2014年 田中恒成(畑中)★
2015年 井上拓真(大橋)★ 尾川堅一(帝拳)※
2016年 比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ=当時)★
2017年 拳四朗(BMB)☆
2018年 竹迫司登(ワールドスポーツ)※
2019年 中谷潤人(M.T)★

2020年 三代大訓(ワタナベ)※

★…のちに世界王者となる受賞者
☆…世界王者になった年の受賞者
※…それ以外の現役選手

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