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2021年11月30日 火曜日

国際基準はウェルター級までが8オンス? 12.4豊嶋亮太に挑む坂井祥紀が語ったグローブ事情

 2年前、新型コロナパンデミックが世界中を席巻する前夜の2019年11月、デビューから約10年にわたって拠点にしてきたメキシコから帰国。2020年から横浜光ジム所属の“逆輸入ボクサー”として国内で活動する東洋太平洋ウェルター級5位の坂井祥紀(30歳)が12月4日、東京・後楽園ホールでWBO世界ウェルター級13位で東洋太平洋&WBOアジアパシフィック同級王者の豊嶋亮太(帝拳=25歳)に挑戦する。

坂井祥紀

 今年4月、国内中量級の第一人者である小原佳太(三迫)の日本ウェルター級王座に挑み、ジャッジ全員が2ポイント差の判定で惜敗。これが国内2度目のタイトル挑戦になる。「タイトルというより、日本の強いやつに勝って、日本のファンの人たちに認められてから、また世界に出て行きたいという気持ちが強い」と話してきた坂井にとって、今年1月に長濱陸(角海老宝石=引退)、5月に別府優樹(久留米櫛間)と王者を連破し、堂々2冠王者に躍進した豊嶋は申し分のない相手だろう。

「前の試合(僅差負けの小原戦)のこともありますし、特に今回はしっかり勝ち切る内容で、誰が見ても坂井が勝ったと言われる試合にしたいですね」

 8月には同門の松永宏信とメキシコ・プエブラで行われた興行に出場した。なかなか次戦の道筋が定まらなかったため、石井一太郎会長が仕掛けた“海外戦略”の一環だったが、坂井にしてみれば、遠征というより“帰郷”に近く、「(空港に)降り立った瞬間から、気持ちが高ぶりましたし、ちょっとエモーショナルな感じというか、懐かしくて、泣きそうになりました」。それも無理からぬことで、メキシコの地を踏むのは約2年ぶりになるが、最後の7戦はすべて米国で戦っており、メキシコのリングに上がるのは、およそ5年ぶりのことだったのだ。

 レフェリーに手を上げられた瞬間は「すごく嬉しかったし、何とも言えない気持ちになった」と、久しぶりのメキシコでの勝利を噛みしめた。試合自体は18勝中15KO(9敗)の37歳、ダリオ・ファーマンから3度のダウンを奪った末、3回TKO勝ちで難なく終わったものの、試合の前日にはドタバタがあった。

 伝えられていた予定時刻より2時間遅れて計量がスタートした上、対戦相手のファーマンが契約体重の67.5㎏をオーバーした。「何か起きるのが当たり前と思ってましたし、(相手が)何かしてくるやろうな、と思ってたんで、それぐらいの覚悟はしてました」と坂井は慣れたものだったが、海外経験豊富な石井会長もさすがだった。すかさず再設定した体重での当日計量のクリア、グローブハンデを相手陣営に突きつけ、坂井は8オンス、ファーマンは10オンスで戦うという条件を飲ませた上で試合を成立させたのである。

 ここで「おや?」と引っかかった方もいるのではないだろうか。この試合は67.5㎏契約、つまりS・ウェルター級である。10オンスグローブを使用するのが本来のはずでは、と。もちろん坂井のほうを8オンスに変更したわけではなく、もともと契約時から8オンスで行われることになっていた。坂井自身、「海外でウェルターでやっていくなら、8オンスになるし、なんなら練習ではレイジェスの8を使ってるんで」と問題にしなかった。

 S・ライト級以下が8オンス、ウェルター級以上が10オンスの日本の感覚では、ますます「ん?」となるのではないか。小原戦から約1ヵ月後、『ボクシング・ビート6月号』でインタビューさせてもらった時、メキシコ時代、両階級で戦った経験があり、「いまのS・ライトでもいけるって思ってるぐらいのフィジカルでは、(海外の)ウェルターでは勝てない」と話す坂井に「8オンスと10オンスで試合をする際の違い」を訊ねたのだが、その答えは意外なものだった。

「いや、メキシコとか、米国では、ウェルターまでが8でした。だから僕、日本に来て、初めて試合で10オンスを使ったんですよ」

 島篤史編集長を通じてボクシング・ビート米国通信員の三浦勝夫さんに確認してもらったところ、少なくとも北中米では「ウェルターまで8」で間違いないとのことだった。

 日本人のウェルター級で、最後に海外で大きな試合、2019年3月に米国フィラデルフィアでIBFウェルター級指名挑戦者決定戦を戦ったのは小原ということで、三迫ジムの三迫貴志会長、担当の加藤健太トレーナーにも訊いた。

 加藤トレーナーは10オンスを前提に練習していた本番の2週間ほど前になって、現地から「8オンス」との情報が入り、「混乱した覚えがある」と振り返った。海外の世界戦と同様、試合で使用するグローブは準備して持ち込むことになっていたため、念のため、10オンスと8オンスの両方を持って行き、試合は結局、8オンスで行われたのだという。

 国際基準はやはり「ウェルターまで8オンス」なのか。そうなると、なぜ日本では8オンスと10オンスの境が違うのか、という新たな疑問が湧いてくる。

 過去の専門誌などをあたってみたり、何人かに訊ねてみたりしたが、経緯は分からなかった。以前はS・フライ級までが6オンス、S・ライト級までが8オンス、ウェルター級から10オンスだった。それが変更になったのは1995年のことである。その時点でも見直しがされなかったということは、かなり前から日本ではS・ライト級とウェルター級が境だったのだろうか……。

小原戦の坂井(左)。グローブは10オンス

 言うまでもなく、長い歴史で唯一、日本から世界チャンピオンが誕生していないのがウェルター級。最後の世界挑戦は2009年10月、ウクライナ・ドネツクで地元のWBA王者ビアチェスラフ・センチェンコに挑んだ佐々木基樹(帝拳=当時)になる。当時の『ボクシングビート9月号』の試合レポート内には《使用グローブはWBAルールで8オンスとされ、挑戦者陣営を戸惑わせたが、佐々木本人は「8オンスのほうがいい」と強打を生かせる軽いグローブの使用を歓迎し……》との記述もあった。

 まだまだ取材が不十分なところもあるが、日本のウェルター級前後で戦うボクサーは海外で戦うことになった時など、心に留めておいたほうがいいかもしれない。

 再び坂井の話。次が4度目の国内リングであり、10オンスも4度目になる。もっともグローブの重さ、大きさの違いより「レイジェスがウイニングになるほうが変わる」とメーカーの違いによる感触の違いを口にした。

「レイジェスのほうがやわらかいというか、(手が)開きやすいというか、自由が利くので、ここ(手のひらの部分)が使いやすいですね。似てるのはエバーラスト。あと(国内2戦目の墨田区総合体育館で使用した)プライズリングも結構、近いです。ウイニングは硬くて、形状がしっかりしている感じなので」

 長年、メキシコで使い慣れてきたこともあるが、定評のあるディフェンス、特にブロッキングテクニックで、パンチをキャッチしたり、カバーしたりが「レイジェスのほうがやりやすい」というのがいちばんの理由。豊嶋戦はウイニングの10オンスになりそうだが、それでも「今でこそ、別にどっちでもいいかなっていう感じですけどね」と逆輸入ボクサーは笑い飛ばした。

 グローブの一事だけでも、日本のボクサーとは違った経験を経てきたことが分かる。メキシコシティのロマンサジムで名匠ナチョ・ベリスタイン・トレーナーの薫陶を受け、2017年8月にはエイドリアン・ブローナー(米)と空位のWBA・S・ライト級王座を争った(計量オーバーのブローナーに9回TKO負け)アシュリー・テオフェン(英)にラスベガスで判定で勝利したこともある。

 S・ライト級で世界挑戦経験もある小原との試合は本格派の中量級の雰囲気が漂った。国内初戦、2戦目はA-SIGN BOXINGのYouTubeライブ配信だったため、権利の都合で使用できなかったが、メキシコで10戦目ごろから愛用してきたマリアッチ『El Son de la Negra(エル・ソン・デ・ラ・ネグラ=黒人女性の意)』で初めて後楽園ホールのリングに入場してきた日本人ボクサーは一味違った。空手、キックボクシングをバックボーンに持ち、ボクサーとしては日本の名門・帝拳ジムで1から育った豊嶋との一戦。やはり見逃せない。

(船橋 真二郎)

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