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11連敗を乗り越えプロ18年目で初戴冠 不屈の王者 出田裕一 初防衛戦インタビュー

2023年8月1日 15時41分

 8月8日、東京・後楽園ホールで開催される「ダイヤモンドグローブ」は中・重量級のダブル日本タイトルマッチ。セミファイナルのS・ウェルター級王座統一戦は、プロ18年目で悲願の初戴冠を果たしたベテラン、正規王者の出田裕一(三迫/38歳、16勝9KO16敗1分)、新進気鋭の若き暫定王者、中島玲(石田/25歳、6勝1KO1敗)が雌雄を決する。

 11連敗、9年以上も勝利から遠ざかる苦闘の時期を乗り越え、昨年11月に同い年の川崎真琴(RK蒲田)を9回でストップ。国内現役最年長王者の座を受け継いだ出田だったが、代償は大きかった。網膜剥離で手術。3ヵ月の休養を余儀なくされた。暫定王座に就いた中島とは王者同士の統一戦になるが、「勝ちたい」と素直に思える「強い相手に挑めるのが嬉しい」と笑顔で語る。ヨネクラジム時代からコンビを組む横井龍一トレーナーとともに充実した練習を重ねてきた。(取材/構成 船橋真二郎)

出田裕一

■「勝つ」より「勝ちたい」

――昨年11月に念願の日本チャンピオンになった後、目の手術(網膜剥離)でブランクをつくりました。練習を再開したのはいつ頃だったのでしょうか。

出田 2月、3月頃ですかね。手術が11月末で3ヵ月は安静だったので。

――ということは2月後半から3月上旬ぐらいですか。練習を再開したときはどんな気持ちでしたか。

出田 あまり気負いなく、体力を戻そうとか……。ただ練習の考え方としては、やることを定めて、突き詰める、精度を上げていくというのが自分の中で確立されてきて。よくいろいろなことをやりたがったんですけど(笑い)。

――ああ、言ってましたよね。いろいろアイデアが浮かんできて、トレーナーに言われたことと違うことをやりがちだったとか(笑い)。

出田 はい(笑い)。その時期は別に何かを言われたわけではないですけど、前回、教えられたことを思い出して、イメージしながら繰り返しやってました。

―― 一時期、引退していた以外では、3ヵ月も離れたことって。

出田 ないです、ないです。でも、自分にはやっぱりボクシングだなとか、そういう真新しい感情は何もなく(笑い)。地道に。思ったより体力が落ちたな、体力を戻さないとな、とか。そんな程度で。

――では、4月1日に相手も決まって、初防衛戦に向かってきた気持ちは?

出田 今は楽しみです。

――今は、というと?

出田 はい。練習を再開してからは、「勝つ」っていう強い気持ちを持たないといけない、みたいなことをずっと思ってたんですよ。前回(川崎真琴戦)は「勝つ」という気持ちが、自分で言葉に出してもすんなりと入ってきたんですけど、今回はしっくりこなくて。なんでだろう? なんでだろう? と疑問を抱きつつ、そんな日々を繰り返していたんですけど。

――楽しみに変わった。

出田 中島くんの動画を見まして。巧いということは聞いてたんですけど、いや、ほんとに巧いなと思って。もう、技術では敵わないと思って、そのときに純粋に思ったのが「勝ちたいな」と。

――「勝つ」ではなく、「勝ちたい」。

出田 はい。「勝ちたい」って、自分を下に見て、相手を上に見てるような、そんなニュアンスだと思うんですけど。もう、なんの恥じらいもなく、「勝つ」より「勝ちたい」と。そのほうがしっくりくるんだな、と思って。

――そこで自分の気持ちが定まった。カチッとハマった。

出田 はい。ハマりました。結果はどうなるか分からないですけど、楽しみです。なんか、どこかで強がってたのかな、と。チャンピオンだから、とか、勝たなきゃ、とか。

――チャンピオンだから、余計に「勝つ」「勝つ」と力が入って、その自分にしっくりこなかったのが、ある意味、肩の力が抜けたというか。

出田 はい。そうかもしれないですね。

■スピード、技術では勝てなくとも勝つやり方はある

――中島選手の試合の動画を見たのはライブで?

出田 (中島と)加藤(寿=熊谷コサカ)さんとの試合(暫定王座決定戦)が終わってから、1日、2日、空いてでしたかね? 中島くんが勝って、自分と戦うことが決まったので、研究しようということで。

――どんな展開をイメージしますか。

出田 どうなんですかね……? まあ、自分にできるのは前に出て、打って、打ってという戦い方なので。それに対して、中島くんがどう来るか。脚を使うだろうという予想だったり、まあ、前に出て打ち合いに来るかもしれないとか、いろいろあるんですけど。客観的に見て、誰が見ても面白い試合になる、まあ、打たれるし、打つし、みたいな。そんな展開になるんじゃないかなと。

――出田選手がやることは大枠、決まっていて、前に出て、攻めていく、どう前に出るか、どう打つかはいろいろ考えているんでしょうけど。自分は攻めるから、中島選手がどう出てきても単純に面白い試合になると。

出田 はい。そういうことですね。

――中島選手は身長が167センチで、この階級としては小柄じゃないですか。出田選手は177センチで、身長差はどう考えていますか。

出田 うーん……。そこまで私は考えてないですけど、やりづらいなとは、きっとなると思います。顔ばっかり狙うと、中島くんのよけるセンス、技術を考えても当たらないと思うので。ボディーを打って、というぐらいですかね。

――中島選手の特長は、出田選手が挙げた巧さと、それにスピードですよね。一瞬一瞬の動きの速さ、ハンドスピード。その点についてはどうですか。

出田 どうですかね……。間違いなく、パンチのスピードに対して、自分が見切れて、よけるとかはできないんですけども、まあ、打ってくるタイミングはやっていくうちにつかめてくると思うので、相打ち覚悟で。はい。打たれても同時に当てるぐらいの気持ちでいますので。そういったところも踏まえて、面白い試合になるんじゃないかなと。

――スピードの速さに対応するのではなく、打つタイミングを捕まえて、そこにどんどん相打ちで合わせるなりして、自分の展開に持ち込んでいきたいと。

出田 はい。まあ、まったくもらわないで勝つことは、私の場合はないので(笑い)。打たれて、打たれて、その中で、いかに効かされないように、いいパンチとしてもらわないようにしながら、自分の勝機を見出していけるかですね。スピード、技術で勝とうとはまったく考えてないので。ただ、勝つやり方はあるなという感じです。

昨年11月、出田(右)は川崎との熱戦を制して戴冠した

――加藤戦の試合後のインタビューで、中島選手が出田選手について「眼中にない」というようなコメントを(笑い)。

出田 あ、言ってましたね。まあ、その言葉に対して、自分が苛立つということはまるでなく。特に気にはしてないです(笑い)。

■妻の一言のおかげで

――ずっとボクシングは個人でやるもの、それまでは勝つのも負けるのも結果に対しては自分が責任を負うもの、自分ひとりのものだと考えてやってきたのが、トレーナー、会長やジムメイトを含めたジム、チームでやるものと初めて体験したのが前回の川崎戦だったと。

出田 はい。そうでした。初めての体験でした。

――今回も同じ気持ちで?

出田 そうです。基本的に横井(龍一トレーナー)先生に教えていただいているので、しっかりと横井先生の言うことを聞いて、これを言っているのは、なぜなのか、その意味を自分で考えるようになってるんで。前までは、いや、これは違うなと思ったら「はい」と返事しつつ、自分で考えたことをやって、横井先生が言ったことをやらなかったりしてたんですけど(笑い)、前よりは、ひとりでやってる感覚はないですね。なので、変わった……少しは変わったのかなと。すべて頼り切ってるわけではないですけど。

――もちろん、自分自身でも考える中で、試合で何をやるか、どう戦うのかを横井トレーナーと共有しながらできているということですかね。

出田 はい。そうですね。

――今回の試合が決まってから、奥さんからは何か?

出田 いや、特に。ボクシングに関しては何もないですね。チャンピオンになってからも変わらずです。何も言わずに食事の面とか全面的にサポートしてくれますし、今回も同じです。

――だから、ほんとに積極的に、というか、決定的な言葉をかけてくれたことは、(川崎戦の前に)重田(裕紀=ワタナベ)選手に1ラウンドで倒されて、負けた直後の控え室に娘さんと一緒に迎えに来て、「次だね」と言ってくれたときだけなんですね。

出田 はい。あれはびっくりでしたけど。まさか、まさか、「次だね」って(笑い)。自分でも「ああ、今回で……」と思うところがあったのに。

――思いがけない一言で。

出田 はい。負け方とか関係ないんでしょうね。負けは負け。妻は私の負けをずっと見てきてるんで(笑い)。それにしても、あれで「次だね」はすごいな、と思いました。もし、あのときの自分の感情で、妻がただ私の返事を待つだけ、というか……。

――もし、意志に任されていたら。

出田 はい。だったら、今に至ってなかったわけですし。あれがあったから、「ああ、次か」みたいな。もう迷う間もなく。

――あの一言のおかげで、今もこうして、いろいろなことを考えて、感じて、ボクシングができているということですね。

出田 いや、そうですね。あれがあったから、私も続けられましたし……。今、あらためて聞かされると……。(しみじみと)いや、そうだな、ほんとに。

――だからこそ、ボクシングは自分ひとりだけのものじゃないと感じたと。

出田 そうですね。ほんとに(笑い)。

――出田選手がプロになったヨネクラジムの米倉健司会長が4月20日に亡くなられました。どのように受け止めましたか。

出田 亡くなられて、寂しいなという気持ちはありましたけど……。

――プロキャリアの大半を米倉会長のもとで過ごされて。

出田 はい。米倉会長は、どの選手に対しても親身になってくださるんですけど、私の若かりし頃と言いますか(苦笑)、あまり会長の話を聞かなくて、もっと話を聞いておけばよかったな、と……。

――ああ。それこそ、ボクシングは自分ひとりだけのものという時期で。それがチームという意識に変わってきたから。

出田 まあ、若かったな、と。今から思うと、ですけど。

コンビを組む横井トレーナー(左)と出田

■届かない綱に手を伸ばすように

――今年11月で39歳になりますが、年齢については?

出田 まあ、ことボクシングを続けることに関しては、特に何も考えることはないですけど。休むときは休まないと、次の日が動けないなというか、回復が遅くなってるのは実感としてあります。

――メリハリの付け方、抜き方は分かってきた。

出田 頻度が少し分かってきたなと思います。前回の川崎さんの試合のとき、1日1日の練習メモを残しておいたんですけど、見返すと、今までと違って、走る回数が圧倒的に少なくて。

――走る頻度ということですか?

出田 はい。ジムワークはもちろん毎日なんですけど、ロードワーク、走るのを極力、少なくしたわけではないですけど、毎週土曜日に三迫ジムの(合同のラントレ中心の)朝練があるので。

――そのジム合同の朝練に参加するようになるのも前回からでしたね(笑い)。

出田 あ、そうです(笑い)。で、その朝練をメインにして、瞬発系を中心に。持久的な長く走るとかは、ほとんど。もちろん、まったくないわけではないんですけど。

――圧倒的に少なかったわけですね。

出田 ものすごく少なかったです。この程度でいけたんだというぐらい。

――その代わり、毎週土曜日に集中的に走ることが核としてあって、その上で、ということですね。

出田 はい。その分、疲れがなく、ジムワークは集中してできましたし。

――前回のコンディションが証明しているから、あのときと同じぐらいの状態で今回もリングに上がれればと。

出田 いいコンディションでした。なので、前の経験を見返して、別にそれと同じようにする必要はないですけど。この暑さということも考えて。

――ある意味、これぐらいで大丈夫という指標にはなる。

出田 なります。記憶って、あいまいなものなので。

――休むのは勇気がいりますよね。特に出田選手は練習するし、練習したいし。

出田 はい。勇気いりますね。今は走るのが楽しくて、逆に走りたいぐらいで。でも、走ると強くなるなら走りますけど、必ずしもそうではないので。

――以前、話を聞かせてもらったときは、上山仁さんの20度連続防衛の階級記録を調べたりもして、この年齢でもチャンピオンで居続けられることを証明するのが今後の目標だと。

出田 あ、はい。変わりました。

――変わった?

出田 はい。今回の中島くんは、私にとっては、すごく嬉しい相手で、強い相手と戦いたいというか。その防衛を重ねる、ベルトを守る、そういう気持ちがあのときはあったんですけど、練習を再開してから、あまりモチベーションが上がらなくてですね(苦笑)。

――ああ。だから、それも含めての違和感、しっくりこなかったんですね。

出田 かもしれないです。昔の自分はほんとに強い相手とばかりやってきたと思うんですけど。

――負けが込んでいた頃は、対戦前後のチャンピオン経験者が9名でしたか。

出田 はい。なので今、強い相手と戦いたい気持ちが出てきて、だから今回、勝ったらすぐに上ということではないですけど、仮に三迫(貴志)会長が上のステージを用意してくれたら、私に断る理由はないというか。常に上の気持ちは持っていようと思います。

――だから、「勝ちたい」と思える試合、挑む気持ちで臨める相手との試合が嬉しくて、楽しくなったんですね。考えてみれば、チャンピオンで居続ける、という目標を聞いたのは、手術後、休んでいるときでしたね。

出田 ですね。いろいろな意味で保守的というか、守りに入っていたんだと思います(笑い)。

――強いと自分が認めた相手に勝てるように練習の中で自分を高めて、結果を出したら、また自分の可能性が広がりますよね。

出田 いや、そうですね。勝ったときの喜びも大きいでしょうし。なので、自分は勝ちたい気持ちを前面に出して戦うだけです。

――出田選手が勝ちたいという気持ちで積み重ねてきたものが、すべて表れる試合になると。

出田 そうですね。最初は、巧くて、速くて、力のある中島くんに対して、空回りするかもしれないですけど、届かない綱に手を伸ばして、手を伸ばして、私の勝ちたい気持ちが勝利を引き寄せるところを見てもらえたらいいですね。

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