6月9日、後楽園ホールで開催される「ダイヤモンドグローブ」のメイン、ウェルター級8回戦は元チャンピオン同士のサバイバルマッチとなる。
S・ライト級で3冠を獲得するなど、実績を残した永田大士(三迫、36歳/21勝7KO5敗2分)は階級を上げ、ボクサー人生の「最終章」と位置づける「新しいチャレンジ」に踏み出す。一方、17歳のデビューから大分・別府を拠点に日本ウェルター級暫定王者となった小畑武尊(27歳/14勝6KO9敗1分)。「事実として、地方のハンデはある」のは前提の上で独自の探求を続けてきた。
どちらが久しぶりの勝利をつかみ、タイトル奪還に道をつなげるか。《取材・文 船橋真二郎》

三迫ジム現役最古参となった36歳の永田大士
■好きなボクシングが嫌いに……
「でも、ボクシングが好きです……やっぱり、好きですね……」
年明け1月17日、李健太(帝拳)との決定戦に大差をつけられる判定で完敗し、S・ライト級のWBOアジアパシフィック王座の奪還ならなかった控え室で、涙ながらに吐露した。
「あそこで自分の本当の気持ちが分かったかもしれないです。こんなにも打ち込めて、こんなにも懸けられるものはないな、ボクシングが好きなんだなって」
それでも自身が置かれた立場は理解していた。試合の5日前に36歳になり、キャリア12年目で初の連敗。7ヵ月前にはキム・ジュヨン(韓国)に1-2の判定で敗れ、東洋太平洋と合わせて一気に2つのタイトルを失っていた。
「引退も考えましたし、覚悟もしました」という永田に階級アップを勧め、現役続行のチャンスをくれたのはジムだった。
「やめたくはなかったですけど、僕からは絶対に言えなかったですし、ウェルター級に上げて、(ボクシングを)もう1回できると言われたのは一番の喜びでした」
3年前に1度、ウェルター級でテストマッチを戦ったことがあるように、すでにS・ライト級はギリギリで、特にここ数戦は厳しい減量を乗り越えて、リングに臨んでいた。体重に対する過度な意識が、もともと多すぎるぐらいだった練習量をさらに増やすことにもつながり、慢性的にケガや疲労感を抱える悪循環にも陥っていたという。
コンディションは常に芳しくない状態で「好きなボクシングが嫌いになりかけていた」と永田は明かす。
そんな自分に本当の意味で気づくことができたのは、復帰を決めてからだった。

李健太(右)に大差判定で敗れ、タイトル奪還はならず
■永田の新しいチャレンジとは
本格的な再始動は3月第1週から。すぐにでも動き出したい気持ちを抑え、1ヵ月以上、あえて我慢した。
いいと思った練習は積極的に取り入れてきたが、いくつもあったジムワーク以外のトレーニングメニューを減らした。とことん追い込んでいたロードワークは、幼い息子を保育園まで送っていく毎朝の散歩に代わった。
「おかげで故障も治ってきて、ようやく体が自由に動き始めた感覚があるんで。やっぱり、休みを入れたほうがいいな、みたいな。いまさらですけど(笑い)」
ジム最年長の40歳で、現役世界ランカーの中川健太(三迫)からは「休むことも大事だぞ」と何度も助言されていたそうだが、練習量が支えになっていた永田には勇気が必要だったのだろう。
減量の不安が軽減されたことも大きかった。
「自分にとっては“新しいチャレンジ”で、不安も少しはあるんですけど、今はワクワク感のほうが大きいです」
こんな気持ちでボクシングと再び向き合えたのも「この環境のおかげ」とジムに感謝する永田には、もうひとつ大きな変化があった。

タイトル奪還を果たし、加藤健太トレーナー(右)と歓喜(2022年12月)
プロ転向時から、正確には永田が自衛隊体育学校を退校になり、自衛隊に勤務しながら個人参加でアマチュアの試合に出ていた当時から指導を受けてきた加藤健太トレーナーからの提言で、新たに加瀬未佐登トレーナーと再出発することになった。練習再開から1ヵ月が過ぎたころだ。
「自分はどうしても何かをプラスしようとするので。それが永田の良さを消している面もあるんじゃないか、と感じて」(加藤トレーナー)。長くはない残りのボクサー人生、本人の思うように、悔いのないように、という思いも強かった。
8つ年下の加瀬トレーナーとのコンビは「新鮮」で、永田の「新しいチャレンジ」という気持ちをより後押ししている。
「今までは加藤さんがくれた課題に必死に取り組む形でずっとやってきたんで、難しいところもありますけど。自分で考えて、2人で意見を言い合いながらやるのも楽しいな、という感じです」
やるからには「一番上を目指す」ことに変わりはない。が、それ以上に今は「ボクシングが好きという思いを大切にしながら、1日1日を全力で生きたい」と言う。
「小畑選手、ずっと九州でやっていて、強い相手と逃げずにやってきたので、精神的にも強い選手だと思います。お互いに連敗同士で、勝ちたい気持ちは同じ。どんな形でも勝つだけです」
好きで始めたボクシングを好きで終えたい――。それが「最終章」を迎えた永田の一番の望みになる。そのためにもまず1勝、目の前の一戦に集中し、再起を誓う。
※「ダイヤモンドグローブ」は9日18時の第1試合開始から三迫ジムのYouTubeチャンネル『MISAKO BOXING TV』でライブ配信される。


