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井上尚弥「フルトンがどう来ても準備している」 ビート8月号インタビュー全文掲載

2023年7月23日 13時09分

 いよいよモンスターの試合だ。王者スティーブン・フルトン(アメリカ)対挑戦者井上尚弥(大橋)のWBO・WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチは25日、有明アリーナで挙行される。PFPトップファイターの井上がスーパーバンタム級に初めて上げて無敗フルトンに挑む今回の一戦には世界中のボクシングファンが注目しているといっても過言ではない。本場のブックメーカーも井上優位としているが――。《ボクシング・ビート8月号より全文掲載》

いよいよ登場の井上(写真:吉場正和)

 いよいよ待望の井上の試合だ。この号が店頭に並ぶ頃にはチャンピオン、フルトンも来日し、対決のムードが一段と高まっていることだろう。モンスター井上の登場は、延期期間もあったのでバトラー戦から数えて7ヵ月。この間ファンが辛抱強く待っただけのものを期待していい、とまず予告しておこう。井上の状態がすこぶる良さそうなのだ。

 本誌記者が横浜の大橋ジムを訪れたのは7月上旬。試合までもう3週間を切っていたが、井上の表情はとても明るかった。一に、この時期にしては減量に神経を尖らせていない。これがバンタム時代ならどうしても体重が気になりだす頃だが、スーパーバンタム級に上げた今回はその分も練習に集中できている。試合までの一日一日が充実しているのだ。

 バンタム級の118ポンドからスーパーバンタム級の122ポンドと、井上には4ポンド(約1.8㌔)の余裕ができたわけだが、

 「1.8(㌔)をプラス材料にして当日を迎えられるんじゃないかと思いますね」と井上は言う。いまや「スーパーバンタムのほうが力を発揮できる」というほどフィットしてきているという。

 井上にとってはフルトンがこの階級での最初のテストとなる。わずか4ポンドの体重差が時におそろしいパワーと体力の差を生むのがボクシングというスポーツだが、同じことがフルトン-井上戦で起きうるだろうか。

 むしろ井上本人も口にするように、相手が1階級大柄になることで生じる距離感の違いが見どころになるだろう。しかもフルトンは井上が初めて対戦する黒人ボクサー。チャンピオンのボクシング分析は別稿に譲るとして、その身体的な特徴に井上が目を付けているのは先月号のインタビューで少し紹介した通りだ。

 リーチ、脚ともに長い上に、上半身とバックステップの両方を使いこなして距離を外す。そんなフルトンとの間には「いろいろな距離感があると思う」と井上も言っていた。今月取材に訪れると、この点についてはアメリカ、メキシコから招いた3名のパートナー(ジャフェスリー・ラミド、ブライアン・アコスタ、セサール・バカ・エスピノーザ)とのスパーリングで攻略のイメージがすでに膨らんだと井上は言う。

 井上に聞く。
――あらためて、距離感は試合のポイントになりますか。
 「なりますね、やはり。たとえばロープ際のやり取りも絶対に違うので。ドネアの169㌢とフルトンの169㌢、身長としては同じでも、まったく異なるんです。ロープ際で、ドネアが同じように上体でよけたとしても、距離を感じるのは対フルトンのほうです。それは脚が長いから。スタンスを大きくとって、前後に動ける可動範囲はやはり大きいんですよ。かつ柔軟性もある。だから、そこをどう感じるか」

――とすると、リング中央で正対していても同じことが言えますね。
 「ですね。やはり脚が長い分、移動距離が大きいので」

――フルトンのように左を出しながらパッパッパと下がっていく相手にはやはり井上さんが仕掛けると思うんですが、その際に重要なことは?
 「それはやはり、フルトンよりも速いステップイン。フルトンのバックステップを超えたステップインじゃないと追いつかないでしょう」

――それは一瞬の踏み込み? ツーステップのやり方もありますが。
 「一瞬のもそうだし……出力やパワーって、バックステップのほうが圧倒的に少なくてすむんですよ。どちらが消費するかといえば、ジャブを突いてステップインしていったほうが消費します。かつフルトンは自分のスタイルが確立されていますよね。だからフルトンが確立しているバックステップ以上のステップインをしないと、そこには到達できないでしょう」

――消費を伴いながら。
 「そうです。だから結局苦しい試合になりますよね」

――出力、そこを見据えた練習もしてきたわけですね。
 「してます、してます。12ラウンドを通して、フルに生かして動けるように。でも自分が出たからといってその分下がる、このパターンが12ラウンド続くかといえばそうではないと思うので。一つひとつの隙間を縫って当てていくことになると思います」

――右ボディーストレートなどは?
 「ま、そこも難しいところです。動作的に反応してくるでしょう。フルトンがちゃんと警戒している時にそのパンチは当たらない。だからいろいろ組み立てや突破口を考えていますけど、それをどこに当てはめて使っていくかですね。そこは自分の頭のキレにかかってくると思います。頭を使った試合になると思うし」

――つかまえるという点では、バトラー戦も強打から逃げるスタイルを切り崩そうとしましたが、あれとはまた異なる。
 「バトラーはポイントを取るでもない、倒されなければいいというボクシングでしたので自分はやっていて楽でした。フルトンはそうではなく、ちゃんとアウトポイントしてくる。勝ちにくるアウトポイントなので」

――ポイントを奪うアウトボクシングということですね。今回は井上尚弥からの一方的なアプローチではなく、やり取りがあるわけだ。では近場での攻防についてはどう考えていますか。チャンス?
 「チャンスでもあるし、でもフルトンは戦績以上のものがあると思うんですよ。そういう戦い方をしていないだけで、接近戦で体を使って打ちに行ったらパワーがないことはないと思う。あのアウトボクシングで左を軸にして動いているので、そんなに倒すパンチが染みついていないんですね。だけど自分が下から上げてきてフィジカル勝負でくる可能性もあるでしょう」

――たしかに。試合中に試してやろうとするところは必ずあるでしょう。
 「そうですね。たぶん、全部が逃げ回るボクシングじゃなく、どこかでぶつかってくると思います」

――そこは警戒している?
 「来てくれるならそこにもチャンスは出てくるだろうし、逆にフルトンがロープを背負うとしても、そこで見出す突破口はこちらのイメージにあるので」
                 *
 さて試合の予想だが、アメリカの各ブックメーカーは「3-1」「4-1」といったところでモンスター有利に傾いている。井上-フルトン戦の週末に行われるクロフォード-スペンス戦はクロフォードの優位だが、こちらはたとえば「5-4」と接戦を予想するかのような数字。賭けのプロによると、井上-フルトン戦はクロフォード-スペンス戦ほど勝負が読めないカードではないというわけだ。

 実際、我々もこの数字に近い予想なのである。

 試合に向けたスパーリングで井上はクリンチ際の練習もしていた。珍しい、というか初めて目にしたが、もちろんこれはフルトン対策だ。フルトンがこのワザを駆使して井上の攻撃を遮断しようとすることは十分考えられる。仮にフルトンがリードしていて使いだしたらやっかいではあるが、井上のことだからそのあたりも抜かりはあるまい。

 「フルトンがどう出てきても対応できる準備はしていますよ」

 井上の言葉通りなら、試合はスーパーバンタムにスピードを持ち込んだモンスターがフルトンが味わったことのない重圧を与え続けるだろう。フルトンのスタイルと我慢強い精神力はたしかに侮れないが、相手の隙を狙い続けるプレッシャー型パンチャーの井上がこれを打ち砕くのではないか。《了》

 ※井上-フルトン戦特報のボクシング・ビート9月号は8月12日(土)発売となります。試合リポート、関連企画てんこ盛り!

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