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渡辺雄二の甥・高山涼深「伯父を超える」 スターへの第一歩 6.13日本S・フライ級王座決定戦

2023年6月5日 14時56分

 6月13日、後楽園ホールで行われる「ダイヤモンドグローブ」は興味深いサウスポー対決。ともにアマチュア経験があり、初のタイトル挑戦となる日本S・フライ級1位の川浦龍生(三迫/29歳、9勝6KO1敗)、2位の高山涼深(ワタナベ/26歳、5勝4KO無敗)が空位の王座を争う。

 両者は昨年12月に対戦が決まっていたが、高山の負傷で中止になり、川浦が2月に橋詰将義(角海老宝石)と決定戦を行うことになった。だが、これも直前の橋詰のケガで流れ、巡り巡って、もとのカードに収まった経緯がある。

 スピード、テクニックは川浦。パンチ力、メンタルの強さでは高山。両者は過去にスパーリングで手合わせしたことがあり、互いの印象は一致する。一撃のパワーで上回る高山に対し、川浦には一瞬を突くカウンターの鋭さがある。スリリングな試合が展開されそうだ。

 元日本ユースS・フライ級王者でもある高山は、強打を武器に日本王者(S・フェザー級)、東洋太平洋王者(フェザー級、ライト級)となり、世界に2度挑戦した1990年代のスター選手、渡辺雄二の甥。「伯父を超えるためのステップ」という一戦に「何が何でも勝ちたい」と決意を示し、中学生の頃から指導を受け、駿台学園高、法政大の先輩でもある小口忠寛トレーナーへの恩返しを誓う。(取材/構成 船橋真二郎)

■このチャンスを絶対に生かしたい

――もともとは昨年12月5日に対戦するはずが、高山選手のケガで。どんな状況だったんでしょうか。

高山 そうですね。(試合の)1ヵ月前ぐらいにランニングをしていたときにつまずいてしまって。転び方がよくなくて、右足を折ってしまって。

――練習を再開するまでにはどれぐらい?

高山 1ヵ月ちょいぐらいは休んでましたね。足だったんで、何もできなくて。そこから毎日、病院に行って、超音波(治療)をしたり、プールに行ったり。ちょっとずつ。

――本格的に練習を再開できたのは?

高山 もうガッチガチの本格は、2月から3月にかけてぐらいからですかね。で、4月7日から2泊3日で京口(紘人)さん、谷口(将隆)さん、(湯場)海樹と(千葉の)館山のほうに合宿に行かせてもらいました。小口さんにカツを入れて来いと言われて。

――砂浜で走り込みを?

高山 そうですね。フィジカルトレーナーの寺中(靖幸)さんにメニューを組んでもらって、結構な上り坂の砂浜とかを走りました。やり切ることを目標に行ったんですけど、ケガをする前の状態にまた一歩、戻れたというか、そこから勢いがついた感じです。

――その頃には、もう話があったんですかね。2月に決まっていた王座決定戦も中止になって、またチャンスが巡ってきたというか。

高山 びっくりしました。運があると言ってはいけないんですけど、周りには結構、言われます。こんな話はなかなかないと僕も思うので、このチャンスを絶対に生かしたいですね。迷惑をかけてしまったので、ケガには気をつけて。

■倒すときは勝手に体が動く

――川浦選手とはスパーリングをしたことがあるそうですね。

高山 そうですね。龍生さんの相手がサウスポーに決まって、僕が富岡浩介(RE:BOOT)とやる前……かな? 応援していただいてる方が一緒だった縁で、そのときは川島ジムのほうに行かせてもらいました。一昨年ですかね? 何回かやりましたけど、結構、前ですね(笑い)。

――そのときの印象は?

高山 まあ、僕の苦手なタイプですね。

――苦手なタイプと言い切ってしまう(笑い)。

高山 言っちゃいます(笑い)。まあ、でも、苦手と思ってるだけで、スパーの距離感と試合では変わってくるので。対峙してみて、その都度、その都度、対応していけば、いけると思ってますね。直感を信じて。

――リングで向かい合ったときの自分の感覚を信じて。

高山 そうですね。変に考えると(体が)動かないので。

――高山選手の目にどういう選手と映っていますか。

高山 巧いですよね。スピードとテクニック、パワーというよりキレという感じで。僕がまさっているのはメンタルとパワーですかね。

――パンチ力がクローズアップされるけど、それだけじゃないですよね。

高山 そうですね。倒そうと思って、パンチを打ってるわけじゃないので。なんか……(ささやくような声で)「当たれ」みたいな……。

――「当たれ」? なんでまた、そんなかわいい声で(笑い)。

高山 いや、ほんとに(笑い)。倒そうとすると力んじゃうんで。でも、練習のときは、当てる場所をしっかり意識します。結局、試合で倒そう、当てようとしても力んじゃうんで。その練習してきたことが試合でフッと出ればいいなと思ってますね。

――練習のときにピンポイントで当てる場所を意識して、意識して、試合では勝手に体が反応するぐらい染み込ませるようなイメージなんですかね。

高山 そんな感じですね。倒すときは、勝手に(体が)動いてくれるので。

――パワーだけじゃなくて、倒すタイミング、テクニックにも自信があるのではないですか。

高山 どうなんですかね……? 「俺は強えぞ!」みたいに自信を持てないタイプなんで。だから、(重岡)優大なんかはめっちゃいいなと思いますね。自信に満ちあふれてるじゃないですか。

――彼は自信満々ですもんね。

高山 ああいうのを見ると刺激にはなりますよね。まあ、自分もそれぐらい思ってもいいのかなと思うんですけど、そう思えない自分がいるんで。でも、そこが逆に自分の強みかなと勝手に思ってます(笑い)。

■面白い試合なら高山、つまらない試合なら川浦

――今回の試合、どこが勝つためのポイントになると考えていますか。

高山 言葉を選ばずに言っちゃうと、つまらない試合になるか、ならないかがポイントなんじゃないですかね。僕が“なあなあ”なボクシングをしちゃうと向こうのペースになって、面白味のない試合になると思うんですけど、僕がガンガン行ったら、どこかで何かしら起きると思うので。そこが見所だと思いますね。だから、僕が捕まえ切れるか、捕まえ切れないか。

――なるほど。言葉を選ばずに言うと、つまらない試合になったら川浦選手の勝ち、面白い試合になったら高山選手の勝ち、ということですか。

高山 はい。でも、欲を言えば、つまらない試合になっても僕の手が上がる展開にしたいです。どんな試合でも勝ちに持っていければ、レベルアップにもつながるんで。それこそ、その都度、対峙してみての直感で。

――長いラウンドの長期戦になるイメージなんですか。

高山 でも、長いラウンドやるつもりはないです。最初から行けたら行こうかなって。

――チャンスがあったら倒す。

高山 ……まあ、そこも対峙してみて(笑い)。

――そこは言い切らない(笑い)。で、もう、一昨年の10月になるんですね。前回の千葉(開=横浜光)選手との試合で出た課題をつぶす期間でもあったと思うんですが、あの経験をどう捉えてきましたか(2度のダウンを奪い、判定勝ちもシーソーゲームの激闘に)。

高山 8ラウンドフルに戦って、判定というのが1回もなかったので。そこで動き切れたことはいい経験になりました。ところどころ記憶がないんですけど。

――そう言っていましたね。

高山 でも、格上の1階級上の相手に、契約(体重のノンタイトル戦)とはいえ、しっかり打ち合えて。その後、その千葉選手が東洋太平洋(バンタム級)のチャンピオンになったんで。余計、自信になりました。こんな相手に勝てたのか、と思って。自分ももっと頑張らないとなと思いました。

――映像で試合を見返したと思いますけど、課題として意識しないといけないと考えてきたことは?

高山 やっぱり、打ち終わりですね。攻撃の中のディフェンスが甘かったので。他にもあるんですけど、いちばん意識したところはそこです。

――ダウンを取ったあと、効かせた場面で相手を詰めたところに逆にもらって、効いたシーンが何回かありましたもんね。

高山 はい。チャンスはピンチって言うじゃないですか。チャンスだからといって、調子に乗らないことは絶対に意識しないといけないですね。しっかり集中して。逆もまたしかりなんですけど。

――逆にピンチもチャンスに変えられる。まさに(2019年10月の)大橋(哲朗=真正)選手との試合は、そんな感じでしたよね(先にダウンを奪うも倒し返され、劣勢の展開の中、最終8回に倒し返して逆転勝ち)。キャリアは5戦ですけど、その両方を経験しているのは大きいかもしれないですね。

高山 デカいですね。まあ、あの試合でもダウンはチャンスに攻めたところで食らったんですけど(笑い)。次の試合も、どんな展開でも勝ちたいです。

■がむしゃらに泥臭く

――結果的に試合間隔が1年8ヵ月空くことになりました。

高山 コロナで3回試合が流れたりとか、僕は結構、間隔が空くので、気にはしてないですね。

――試合勘ということではどうでしょう。

高山 試合感覚は分からないですけど、試合に合わせて上げていくだけです。気持ちはできているので、試合ぎりぎりまで頑張って、体だったり、イメージが追い着いてくれば。

――スパーリングは、今日も相手をしてくれた谷口(将隆)選手を中心に。

高山 はい。そうですね。

――谷口選手は川浦選手とアマチュア時代に試合をしていて(大学1年時の国体準決勝で谷口がポイント勝ち)、高山選手にとって噛み合わせがいい相手ということも言っていましたが。パートナーとして、これ以上ない相手ですね。

高山 巧くて、なかなか(パンチが)当たらないですからね。

――そういう意味でもいい練習になりますね。

高山 世界チャンピオンとできるなんて、ほんとにありがたいです。

高山(右)は元世界王者の谷口から多くを学んだ

――どういう気持ちを持って、臨む試合ですか。

高山 今回、ケガで辛い時期も長かったので。サポートいただいた方に結果で返したいです。特に小口さんには、中学生のときからずっと見ていただいてきて、ひとつの区切りじゃないですけど、形として恩返ししたいですね。あとは伯父を超えるためのステップとして、まずは日本という気持ちです。

――10戦全勝10KOで世界初挑戦した渡辺雄二さんのように、全勝全KOで世界まで行きたいと言ってきましたが、前回で途切れたことについては?

高山 やっぱり、伯父は偉大だったなと思います。でも、そこ(全勝全KOで世界チャンピオン)では超えられないですけど、ゆくゆくは世界を獲って、結果で超えられればいいなと思ってますね。

――試合間隔がどうしても空くということでは、ここでタイトルを獲ったら、コンスタントに防衛戦ができるので。そのためにも大事ですよね。

高山 はい。ここで勝つと負けるでは人生が変わると思っているので。人生をいい方向に変えるために頑張ろうと思います。もう、がむしゃらに泥臭く。何が何でも勝ちたいですね。

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