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日本S・ライト級王者の藤田炎村に聞く 4.9李健太との注目戦「世界に挑む素質を試される試合」

2024年3月28日 11時41分

 日本王者と最強挑戦者が激突するチャンピオンカーニバルの中でも最注目のカードがそろった。4月9日、東京・後楽園ホールで行われる「ダイヤモンドグローブ」はダブルタイトルマッチ。国内中量級屈指の戦いになる。

 強打を武器に躍進する王者・藤田炎村(三迫/29歳、12勝10KO1敗)の攻撃力か、リーチのあるサウスポーの挑戦者・李健太(帝拳/28歳、6勝2KO1分)の高いスキルか。対照的な2人による日本S・ライト級タイトルマッチ。一発のある王者・仲里周磨(オキナワ/27歳、14勝8KO2敗3分)の雪辱か、戦略に長けた挑戦者・三代大訓(横浜光/29歳、14勝4KO1敗1分)の覇権奪回か。6年半ぶりの再戦で両者が雌雄を決する日本ライト級タイトルマッチ。ともに緊迫感あふれる攻防に期待が高鳴る。

藤田(右)と椎野トレーナー

 昨年4月の王座決定戦からタイトルマッチ3連続TKO勝ち。この1年、著しい進境を示してきた藤田が「日本を卒業して、世界に挑める素質があるのか、試される試合」と位置づけるのが今回の3度目の防衛戦だ。「李健太選手は今のランカーの中でも評価も実力も一番高い選手。次のパフォーマンスが、そのまま今後の自分への期待値になる」と決意を込める。

 株式会社リクルートの営業マンとの“二刀流”で活動してきた藤田は昨年末で会社を退社。「自分に革命を起こしたい」と“24時間ボクサー”宣言したのは、さらに上を目指すためだった。だからこそ、「楽しみのほうが大きい」ときっぱり。「『藤田、負けるんじゃない?』と言われる相手がいるのは運がいい。素直に感謝したい」と実力証明の機会を歓迎する。

 1年を通してディフェンスやジャブなど、全体的なレベルの底上げを図ってきた。着実にベースアップしてきた上で「今回は前面に藤田の特徴を出したい」と椎野大輝トレーナーは言う。序盤をポイントに挙げ、ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ=IBFフェザー級王者)、ジョンリール・カシメロ(比=元3階級王者)のふてぶてしいまでのプレスを参考に、持ち前の強打やスイッチなどを駆使し、「嫌だな、やりづらいなと早い段階で印象づけたい」という。

さばく李、追う藤田が大方の描く展開予想になるが、「ボクシングは生もの。その日の自分の判断で決まる」と藤田。「そう簡単に当てさせてくれない」と代名詞であるKOにはこだわらず、リングで最良の判断を重ねた先に求める結果があるという心構えで臨む。「人としてのメンタルの強さ、芯のブレなさ」が勝敗を分けると語る。《取材/構成 船橋真二郎》

■チャンピオンになって、気づかされたもの

――昨年12月の関根翔馬(ワタナベ)選手との防衛戦に勝てば、李健太選手との試合に進めるということが藤田選手の大きなモチベーションになっていたと。

藤田 そうですね。はい。

――望んでいた試合になると思いますが、気持ちが違うところもありますか。

藤田 気持ちは変わらず、いつも通りなんですけど。その一方で、この試合に勝って、得るものの大きさは分かっているという感じですね。

――この試合に勝って、得るものは?

藤田 僕が日本を卒業して、世界に挑める素質があるのか、試される試合になるんじゃないかと思うんで。李健太選手は今のランカーの中でも評価も実力も一番高い選手で、そういう相手にどんな試合をするか、次のパフォーマンスが、そのまま今後の自分への期待値になると思ってます。

昨年12月の関根戦

――これまでになかった緊張を感じた8月の初防衛戦、力が入り過ぎて硬くなった12月の2度目の防衛戦と、王者として防衛戦の難しさを感じてきたと思いますが、今回はまた違うのではないですか。

藤田 おっしゃる通りですね。この2試合はベルトを獲られるかもしれないという認識だったんですけど、次の試合はどっちが(ベルトに)相応しいか、だと捉えているので。試されている。そういう感覚です。ほんとに少しの違いではあるんですけど。

――李健太選手の印象は?

藤田 みなさんと一緒じゃないですか。技術があって、スピードが速くて、大きくて、実力があって。みなさんと印象は変わらないと思います。

――特に気になるのはどの部分ですか。

藤田 個人的にはメンタルです。

――メンタル?

藤田 はい。すごく強いと思うんで。ブレない芯を持っている選手だなって、僕の勝手な印象ですけど。巧い選手はいっぱいいますけど、巧い上に芯の強さがある選手は少なくて。技術とメンタルの掛け算ですごい数字を出していると思うので。そこが彼の強みであり、厄介な部分だと思います。

――メンタルの強さ、ブレない芯をどこに感じますか。

藤田 2つあって。この前(昨年10月)のアオキ(クリスチャーノ=角海老宝石)選手との挑戦者決定戦を実際に見て、アオキ選手が何をやっても淡々と処理をする、最初から最後まで絶対に集中力が切れなかったのがひとつ。もうひとつは、十代の頃から期待される立場にずっと立ち続けてきた人間で、今もなお負けずに期待に応え続けているボクシングキャリアを思うと、芯が強いな、尊敬できるな、と素直に思います。

――ボクシングにもキャリアにも表れている。

藤田 そう思います。人間って、ムラがある生き物なので、少しでも迷いやブレがあるとミスをするじゃないですか。でも、彼の実績自体がミスの少ない実績ですよね。そう考えたら、メンタルが卓越した選手、いや、卓越した人間なんだろうなと思います。

――となると単純に攻撃力とスキルの勝負という見方をされますが、それ以前に人としてのメンタルの強さ、芯のブレなさの勝負になりますか。

藤田 ボクシングって、すごく人間性が出る競技で、言ってしまえば、試合は人格の押しつけ合いだと思うんです。その中で強い自分を保ち続けられるのは、この競技において、ものすごい強みになりますね。チャンピオンになって、ここ1年で、そのことに気づかされたのもあって、余計にそう思います。

■人の倍、真剣勝負をしてきた強み

――人としてのメンタルという面では、ボクシングと並行して、約6年ですか、会社の仕事と両立してきたことで鍛えられてきたのでは。

藤田 それはあります。そういう人間性とか芯のブレなさが何に比例するかを考えたら、真剣勝負の数、言い換えると試された数だと思うんですね。僕はボクシングと会社、どっちも普通に(結果を)求められてきて、人の倍、真剣勝負をしてきたので。自分の強みとして出てると思います。

――今、思い出したのは、以前、就職試験の話をしてくれた時、面接で会社の役員にボクシングとの両立を迷っていることを見抜かれて、競技に置き換えると世界中で競技人口が一番多いのがサラリーマンで、経験することはボクサーとしても価値があると言われたと。

藤田 言われましたねー(笑い)。

――それは就職した会社とは別の会社の方だったということでしたけど、それが決め手のひとつで就職して。サラリーマンという競技者としても真剣勝負を数多く経験してきたということですね。

藤田 僕からすると、もし、この人がボクシングを選んでたら、恐ろしいなというサラリーマン、めっちゃ見てきたんです。僕がボクシングをやってますと言うと、みんな、すごいねとなるんですけど、その人が何を頑張ってるかを抽出して見たら、サラリーマンの方だけじゃなくて、みなさん、思い悩んで、もがきながら生きてるという面では一緒なんです。

――何をやっているかではなく、どうやっているか。

藤田 あ、そうです。いろいろな人と会って、話をすると、こういうことにトライした、こういう失敗をした、こうやってクリアしてきたとか、みんな、めちゃくちゃ真剣勝負してるなと感じて。謙虚に生きなきゃなと思うことが多々ありますよね。いろんな一流がいるなって。その人がどう頑張って、どう向き合っている人なのか、冷静に見るようにしてます。

――そこを見ないといけないし、すごいねと過大に見られている自分を見てもいけないということですね。

藤田 いや、そうなんです。まさに。これは僕の基準なんですけど、みんな、一過性のもので気持ちの強さを測るんですよ。

―― 一過性というと?

藤田 あの選手は、手数を12ラウンド出し続けたから気持ちが強い、ダウンしても諦めなかったから気持ちが強い。一瞬だったら、みんな、気持ちが強いと思うんです。3分間、手数を出し続けなかったら、寿命を何年奪いますとか言われたら、絶対に頑張れるんですよ。例えばですけど(笑い)。

――言いたいことは分かります(笑い)。

藤田 僕の基準の気持ちの強さって、日常生活にあると思ってて。例えば、朝6時に起きると決めた。外にご飯を食べに行って、お茶にするかコーラにするか。そこで6時に起きる、お茶を選べる人が、僕は強い人だと思ってて。そういう小さな積み重ね、意識の高さが気持ちの強さをつくると思うんです。

――日常から選択の連続で、ベストな選択を取り続けられるか。

藤田 そうです、そうです。ただ頑張ってる人、手数を出してる人が気持ちが強いとは、僕は思わないです。日常から自分で決めたルールを守って、完遂できる人が気持ちが強い。で、人がやってる以上に、それをできる自信が僕にはある。負けたくないから。

――そういう普段の自分が大事な局面で出ますよね。

藤田 出ます、出ます。それが勝負を分けたりします。

――結局、自分の武器、藤田選手なら攻撃力、パワー、李健太選手ならスキル、スピード、タイトルマッチという大舞台で相手に対して出せるか出せないか、それを操る人間の強さに左右される。

藤田 そうなんですよね。その武器を誰がどう使うかで、パフォーマンスも変わってくると思います。

■世界を獲るための試行錯誤

――聞かないといけないのは、昨年末で仕事を辞めて。“24時間ボクサー”の生活はどうですか。

藤田 これまで自分は優先順位の高い練習しかできなかったんですね。仕事があるんで。

――限られた時間の中で。

藤田 はい。最低限というか。本当はやりたいんだけど、時間を理由にして切り捨てていた練習もあったんです。それができるようになったんですけど。難しいのは、仕事をしてた時間、何をしてもいいってなったら、トレーニングを頑張っちゃうんですよ。疲労が溜まった状態で練習しちゃったり。

――コントロールが難しい。

藤田 はい。やっぱり、時間ができるとプラスで何かをしようとしますね。僕も最初、プラスすることばかり考えてたんですけど、じゃあ、現時点の自分のポテンシャル、持ってる武器を使い切れてるのかを考えた時にハッとして。自分の体をどう使うか、ストレッチの専門の方、フィジカルトレーナーと話をして、どうパフォーマンスを上げるか、いかに筋力を使うかに今はフォーカスしてます。

――話を聞く時間も、考える時間もできたし。

藤田 そうですね。まあ、まだ試行錯誤中です。でも、これまでやってきたトレーニングの質は落とさず、できた時間を使ってやってるんで。失敗したり、悩んだりですけど、マイナスは1個もないです。

――先ほど最低限と言いましたけど、これまで限られた時間でどう自分を成長させるかを考えて、結果を出してきた。その密度の濃い練習は継続した上で、新たなことを模索して。

藤田 そうです。1日8時間、働いていたとして、1週間で40時間ありますから。どう使ったら、世界まで行けるか。今、一生懸命、プログラムしているところです。

――2019年に全日本新人王で負けた時から、2023年に日本チャンピオンになると決めて。その目標のために動いて、実現したように。

藤田 そうですね。そのためには何が必要か、できることは何かを考えて、そのプログラム通りに動いた結果だったので。次は世界を獲るために。

■ウィナー・テイクス・オール

――そういう意味でも次の試合は試される重要な試合になる。

藤田 でも、楽しみのほうが大きいですよ。そういう「藤田、負けるんじゃない?」と言われる相手がいるのは運がいいですね。

――どんな試合になるとイメージしますか。

藤田 それこそ、みんなが想像する通り、僕がプレッシャーかけて、ゴンテ選手がさばくパターンもあれば、いろんなパターンが想像つくんで。ここで何を言ってもしょうがないですね。結局、そのうちのひとつになるだけなんで。

――もちろん、10ラウンドを意識した上で臨むと思いますけど、勝つにはKO、倒さないと、という意識は?

藤田 全然ないです。そう簡単に当てさせてくれないと思います(笑い)。

――いろいろなパターンを想定した上で、最良の判断を重ねた先に求める結果があるということ。

藤田 そうですね。まあ、ボクシングは生ものなんで。その日の自分の判断で決まると思います。何を判断するかは、メンタルの強さとか、芯のブレなさが関係してくるんじゃないですか。本番力というか。そこは自信ありますし。

――どっちが相応しいか、という話がありましたが、李健太選手も試される。

藤田 ゴンテ選手、「62」という数字が大嫌いだと思うんですよ。

――高校「6冠」とか。

藤田 はい。プロに転向して5年経つのに、まだアマチュアの話をされるのかと。だから、ここで藤田を圧倒して、全部ひっくり返してやろうって、絶対に気合い入ってると思います。

――間違いないでしょうね。藤田選手が築いてきたものがあって、それが今、大きくなってきているから、なおさら。

藤田 まあ、そうはさせないよっていう(笑い)。

――逆に「62」とか「6冠」という実績は藤田選手が持っていないもので。そういう土台がある選手に勝つことで、全部ひっくり返すことができる。

藤田 結局、「ウィナー・テイクス・オール」ですよね。勝ったほうがすべて持っていける競技なんで。その重さに対する恐怖はありつつも、僕と対戦するところまで来てくださったことに素直に感謝したいです。

――注目カードで会場も盛り上がると思います。

藤田 ゴンテ選手も恐ろしく人気なんで。すごい声援になると思いますし、これぞタイトルマッチという緊張感、見ているだけで汗かいちゃうような空気に入場からなると思うんで。体感してほしいですね。

――今回は何人ぐらいの方々が応援に?

藤田 300人ぐらいです。でも、ゴンテ選手は400人ぐらいと聞いたんで。

――そのようですね。

藤田 いや、ここ最近、応援の数で負けることが多くて、応援で押されてるんで。いつもの倍ぐらい声を出してください。実は藤田、結構気にしてます(笑い)。

――100人分ぐらい上乗せして(笑い)。

藤田 はい。100人分ぐらい上乗せして。お願いします!(笑い)

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