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2度目の“聖地”で奪取を期す田井宜広 スイッチにラップ、ダンスも取り込んだ独自のボクシング

2025年2月1日 11時04分

 2月11日に東京・後楽園ホールで開催される「ダイヤモンドグローブ」のセミファイナルはWBOアジアパシフィックS・フライ級タイトルマッチ。今回が初防衛戦となる川浦龍生(三迫/30歳、12勝8KO2敗)に田井宜広(たい・たかひろ、RST/27歳、8勝8KO1敗)が挑戦する。

後楽園ホールでタイトル奪取を狙う田井

 田井はメジャータイトル初挑戦。昨年1月、韓国で行われた王座決定戦でWBOオリエンタル同級王座(JBC非公認)を獲得し、WBO10位にも名前を連ねているが、川浦に対しては「僕よりアマチュアの結果も残していて、別に強がることもなく、格上の巧い人」と敬意を表する。

 小学生の6年間は極真空手。中学生からボクシングに転じ、相生学院高、芦屋大でアマチュアキャリアを積んだ。が、この10年の間に全国大会出場は2度だけ。高校3年時のインターハイでは2回戦で大湾硫斗(志成)に上位進出を阻まれ、大学最後の全日本選手権は準々決勝で村田昴(帝拳)に敗れた。

 それでもアマの経験が礎になっているのは間違いない。特に当時、有力選手を集めていた新興の芦屋大では熾烈なレギュラー争いで揉まれた。スタンスを自在に切り替える独自のスタイルを確立したのも大学時代だった。

 リーグ戦では2年時に初回KO負けの屈辱を味わわされた当時、大商大の池側純(角海老宝石)に3年時はポイント負け、主将対決となった4年時にはポイント勝ちと着実な成長を示している。

 田井の後楽園ホール登場は2度目。「めちゃくちゃ緊張して、記憶が断片的」と振り返る2021年10月、のちの日本バンタム級王者・富施郁哉(ワタナベ)との日本ユース同級王座決定戦で大差の判定負けを喫した。

 この1月21日、同門の宗利佳歩(女子)のセコンドに付き、後楽園ホールの雰囲気を体感。「チャンピオンのホームで獲ってこそ」と思いを新たにした。地元にジムをオープンした父・田井三晴会長との合言葉は「姫路から世界へ」。2度目の聖地で「勝ちにこだわりつつ、僕にしかできない魅せるボクシングもできたら」と飛躍とアピールを期す。(電話取材/構成 船橋真二郎)

■ボクシングの聖地で勝ちたい
――昨日、宗利選手のセコンドに付いたのが自分の試合以来の後楽園ホールになりますか。
田井 あ、その前に高校と大学の後輩なんですけど、真正ジムの小林豪己のタイトルマッチを観に行きました。

――では、去年の2月以来ですか。悔しい記憶が残る場所だと思いますが、田井選手にとって後楽園ホールはどのような場所ですか?
田井 でも、ボクシングの聖地というイメージは変わらずあります。そこで勝ちたい気持ちが強いですね。

――あらためて雰囲気を味わって、感じたことは?
田井 昨日は落ち着いて周りを見れたんで、いい意味で広く感じました。あ、よく見たら広いんやな、という感じで。自分の試合のときはめちゃくちゃ緊張して、記憶が断片的で。基本的に覚えてないんですよ。

――では、一緒に入場もして、イメージトレーニングにもなったでしょうし、試合前に体感しておいたのはよかったかもしれないですね。
田井 行ってよかったと思ってます。結構、アウェーな感じを味わえたし、あの何倍もすごいんかなと思いますけど、敵地に獲りに行くのが礼儀作法やと思ってるんで。やっぱり、チャンピオンのホームで獲ってこそ、と思いましたし、マジでかっさらったろう、と思いましたね。

――昨日、宗利選手が負けた相手も女子のWBOアジアパシフィック王者で、川浦選手と同じ三迫ジムの鵜川菜央選手。余計に気持ちが入ったのでは?
田井 そうですね。次はオレが、となりました。

――ボクシングの聖地で自分の力を見せたいですね。
田井 そうですね。勝ちにこだわりたいですけど、“姫路の田井宜広”というボクサーを見せに行きたいとも思ってるんで。勝ちにこだわりつつ、僕にしかできない魅せるボクシングもできたら、と思ってますね。

父親の三晴会長と

■地元に根っこを張って、世界を目指す
――今の言葉の中に聞きたいキーワードが2つあって。まず、やはり地元の姫路にこだわりがありますか?
田井 そうですね。やっぱり、みんなが関東の強いジムに行きがちというか。それもひとつの手やと思いますけど、地元に根っこを張って、世界を目指す人がいてもいいと思ってるし、好きな姫路から世界を獲ることにこだわりたいなと思ってますね。

――ジムのロゴマークに下剋上と入れていますね。
田井 それこそ、強い人は関東に呼ばれて行きますけど、僕はアマチュアでちょっと成績を残したぐらいなんで。姫路の田舎の町に建てたジムで1から頑張って行こうぜっていう。まさに下剋上ですよね。

――最近だとユーリ阿久井政悟(倉敷守安)選手が岡山のジムから世界王者になりました。励みというか、刺激というか、感じるところはありますか。
田井 すごいですよね。スパーリングをしてもらったこともあるんで、強いのは知ってましたけど、結果で証明できるのがカッコいいです。ああいう人になりたいですね。

――ちなみにお父さんの田井三晴会長がジムを開いたのが2014年ですよね。
田井 はい。僕が高校2年のときですね。

――プロ加盟は田井選手のプロデビューに合わせてだと思いますけど、ジム名はスタートしたときから今の名前で?
田井 はい。最初からRSTボクシングジムでした。

――「RED SNAPPER TEAM」の頭文字を取ってRSTですよね。RED SNAPPERは魚の鯛ですけど、何か由来が?
田井 いや、そのまんまですよ。いろいろジム名を考えてたとき、魚の鯛は英語でRED SNAPPERって言うんや、みたいな話を友だちとしてて。それを会長に振ったら、ダジャレみたいやけど、ええやん! となって(笑い)。

――そうか! 鯛と田井をかけているということなんですね(笑い)。
田井 あ、そうです(笑い)。

――“チーム鯛”で“チーム田井”。英文字にしたらカッコいいし、鯛は縁起もいいし(笑い)。
田井 それもありますし、勢いでつけたところもありました(笑い)。

スイッチを得意にする田井㊧

■“僕にしかできない魅せるボクシング”とは
――それから“僕にしかできない魅せるボクシング”という点です。田井選手と言えばスイッチですが、ボクシングを始めたときからですか?
田井 僕がもともと字は右手で書いて、お箸を持つのは左手とか、そういう感じやったんですけど。小学生の頃の空手は右構えから始めて、途中で左構えに変わったんですよ。それからずっと左構えで。で、中学1年になると同時ぐらいに始めたボクシングでは両方でシャドーしてたんですね。それを当時のジム(高砂ジム)の会長が見てくれて、右構えで行こうとなりました。

――では、ボクシングは右構えからのスタートで。それがいつから?
田井 大学2年の頃ですね。それまではずっと右構えでやってたんですけど、そういや空手は左構えでしとったし、できるんちゃう? と考えるタイミングがあって。そこからですね。本格的にスタートしたのは。

――記録を見ると大学3年からリーグ戦のレギュラーになっていますよね。スイッチにしたことで力が出せるようになって、結果に結びついたということはあったんですか?
田井 あったんですかね? でも、しっくりはきましたね。正直、僕自身、右構えがいいのか、左構えがいいのか、よく分かってないんですけど(笑い)

――そうなんですか(笑い)。
田井 はい(笑い)。相手を見て、左構えのほうがいいなとか、今、スイッチしたいからスイッチするぐらいの感覚なんで。だから、なんで今、そんな動きしたん? って聞かれても、理由なんてないから説明できないんですよ。

――言い方が悪いかもしれないですけど、動きたいように動いているような。
田井 ほんとにそんな感じです。本能的に動きやすいんで、それぐらい自分にフィットしてるのかなと思います。

――そのとき、そのときの感性で、右でやったり、左でやったり。
田井 そうですね。振り返ったら、今回は右構えのほうが多かったな、とか、そんな感じなんで。毎回、違うと思います。

――例えば、同門で高校、大学の後輩でもある小田切駿平選手(サウスポー)とは、数えきれないぐらいスパーリングをしていると思いますが、小田切選手だから左構えがやりやすいとか、この相手だから、ということでもない?
田井 ああ、ないですね。まあ、スパーリングは、今日は右でやろうとか、決めてやることはありますけど。何も決めずに流れでやっちゃったら、ほんまに動きたいように動いてる感じですね。

――もうひとつ聞きたいのが、特技はラップと出ているのを見たんですけど、実際に自分で?
田井 あ、そうですね。大学生の頃は、それこそMCバトルというラップのバトルに出たりとか、自分で何曲か作って、小さい箱でライブをしたりとか。一時期はラッパーになりたいと思ってました(笑い)。

――それは大学生の頃がピークですか。
田井 そうですね。ボクシングをやりながら、ですけどね(笑い)。

――そういうラップのリズム感とか、即興性とか、自分のボクシングの表現とつながる部分はあるものですか。
田井 いや、あると思います。ヒップホップのリズム感とか、レゲエのような聞き心地のいい音楽も好きですし。あとは時間があるときは結構、ダンスの動画を見るんですよ。別にダンスを教えてもらった経験もないですし、自分が踊るわけではないんですけど(笑い)。

――それもボクシングにつながるところが?
田井 そうですね。この柔らかい動きはいいなとか、このステップはいいなとか。ボクシングに使えるんじゃないか、みたいに思ったりはしますね。

――ボクシングの動画より見るとか(笑い)。
田井 ああ(笑い)。でも、ボクシングと変わらないぐらい見るかもしれないです。まあ、見てて気持ちいいし、ダンスの動きから感じるものは多いですね。

――それも含めて、自分にしかできない独自のボクシング。
田井 そうですね。そこにつなげられたら、と思ってます。

小田切㊧、東㊨らと実戦練習に励む

■勝ってこその下剋上
――川浦選手に対しては、どんな印象を持っていますか。
田井 チャンピオンという感じですね。もちろん試合をやる、となる前から知ってる人でしたし、僕よりアマチュアの結果も残していて、別に強がることもなく、格上の巧い人というイメージです。

――川浦選手がタイトルを獲った大橋哲朗(真正)選手は高校の後輩ですよね?
田井 はい。1個下ですね。

――川浦選手との試合前に大橋選手とスパーリングをしたと思いますが、彼を通して力を測りやすいところもありますか。
田井 そうですね。哲朗とジャブの差し合いで上回ってくるんやな、というのが一番の印象ですね。やっぱり、技術が高いんやろうな、と思います。

――田井選手は8勝8KOと勝った試合は全KOですけど。パンチに自信が?
田井 いや、全然ですよ。嫌なんですよね。(戦績を見て)周りは期待するんで。やから、今回は判定でって、試合前は口グセのように言ってます。結果、こうなってる感じです(笑い)。

――特にKOにこだわりはないですか。
田井 まあ、早く終わるに越したことはないですけどね。でも、倒したろ、とかも思ってないし、判定でも勝てるボクシングを意識して練習してるんで。

――パンチ力というより、キレとかタイミング。
田井 そうですね。拳が硬いとは言われるんで、そこは生まれ持ったパンチの感覚なんかな、と思いますけど。なんせ、そのへんは自分では分からないんで。ほんまなんかな? ぐらいです(笑い)。

――今回、勝つために何が大切になると考えていますか。
田井 気持ちですね。初めての12ラウンドでもあるし、負けた場所での試合でもあるし、自分との戦いになる場面が多くなると思ってます。

――初の12ラウンドということで対策は?
田井 スパーリングのラウンド数も増やしてますし、そもそものトータルの練習量を増やしてます。その分、疲労も溜まるんで、体のケアにも力を入れて。

――スパーリングパートナーは小田切選手を中心に。
田井 はい。基本的には毎回、お願いして。プラス、ジムの選手とやったり、尾崎優日(大成)選手、東泰誠(TOUGH BOY)選手にお願いしたり。自分固定で相手を変えて、12ラウンドを含めて、長いラウンドやれてますね。

――WBOオリエンタルは獲りましたけど、JBC公認のタイトルをRSTジムにもたらすという意味でも気持ちが入るのでは?
田井 そうですね。昨日までは佳歩ちゃんに続きますよ、と言ってたんですけど、こういう形になったんで。僕がジムの先頭を切って、走っていきたいなと思います。

――田井選手のキャリアで、どういう位置付けの試合になりますか。
田井 (川浦は)自分史上、一番強い相手になると思うんですけど。でも、僕が目指してるのは世界で、そのためには絶対に必要なベルトになってくるので。相手がどうとか関係なく、思い切って獲りに行くだけです。

――格上と認める相手であり、負けた場所での試合でもあり。ここで勝つことで、ベルト以上に得るものがある試合になりそうですね。
田井 はい。強い相手に勝つという意味でも、自分を超えるという意味でも、大きな試合です。いい勝負をして終わるつもりもないし、勝ってこその下剋上なんで。獲りに行くという強い気持ちを持って、試合に臨みます。

――その中で思い切り自分を表現できるといいですね。
田井 そうですね。全開で行きたいと思います。

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