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“ボクシング王国 沖縄”復活の物語 金城眞吉監督から中真&仲里親子へ 受け継がれるハングリー精神

2024年4月9日 11時36分

「周磨がチャンピオンになってくれて、“強い沖縄”が復活しつつあると思います」

 中真光石・沖縄ワールドリングジム会長の声に力がこもった。周磨とは、もちろん日本ライト級王者の仲里周磨(オキナワ)のこと。昨年4月26日、東京・後楽園ホールで全勝王者だった宇津木秀(ワタナベ)を3回KOで下し、元東洋太平洋S・バンタム級王者の父・仲里繁会長以来、沖縄のジムに約21年ぶりとなるベルトをもたらした。

昨年4月、仲里親子は約21年ぶりに沖縄のジムにベルトを奪還

 昨年12月24日、仲里は豊見城の沖縄空手会館で村上雄大(角海老宝石)を判定で下し、初防衛に成功。これは2002年10月12日、仲里繁会長が宜野湾の沖縄コンベンションセンターでビルゴ・ワロウ(インドネシア)を7回でストップし、初防衛して以来、沖縄に生まれ、沖縄のジムで育ったチャンピオンが沖縄で凱旋防衛を果たした記念すべき一戦でもあった。

 仲里周磨から「砂川隆祐」の名前を聞いたのは、一昨年10月の鯉渕健(横浜光)との最強挑戦者決定戦に向け、話を聞かせてもらった時のことだった。東京での出稽古を終え、沖縄に戻ってからは誰かパートナーがいるのかと尋ねると「ワールドリングにいいのがいるんですよ。大学でアマチュアでやってて、そろそろデビューするんですけど」と返ってきたのが砂川だった。

 この3月18日、砂川(24歳)は初の後楽園ホールで日本ライト級4位の湯川成美(駿河男児)を堂々の判定で破り、日本S・フェザー級6位に躍進。中学生の時に沖縄ワールドリングジムでグローブを握り、美来工科高、芦屋大とアマチュアでキャリアを積んだ。大湾硫斗(志成)は高校の1学年上の先輩になる。

沖縄WR 中真光石会長(左)と愛弟子の砂川隆祐(中央)

 2017年11月に急逝した先代・中真茂会長の後を継いでから初のランカーとなった中真光石会長の秘蔵っ子。昨年7月30日、神戸で当時5連勝中の日本S・フェザー級14位、岸田聖羅(千里馬神戸)に3回TKO勝ち。プロ2戦目で日本ランク入りを決めた。

 仲里とのスパーリングで鍛えられてきたのが砂川なら、沖縄尚学高、東洋大を経て、父のジムからプロデビューした中真光石会長が揉まれた相手が仲里繁会長だった。2003年4月26日、世界初挑戦となったオスカー・ラリオス(メキシコ)戦の前にもパートナーを務めた。

「僕がラリオスの真似をして。よく倒されましたよ。あの人は手加減しないんで(笑い)。今、思うとスリリングで面白かったですけどね」

 自身は2014年8月、33歳の時に沖縄コンベンションセンターでタイトル初挑戦。東洋太平洋S・フェザー級王者でタイの強豪ジョムトーン・チューワッタナから2回に右でダウンを奪い、一矢報いるも大差の判定で敗れ、これがラストファイトになった。

 中真茂会長が沖縄のジムからチャンピオンに育てたのが仲里繁会長で、その仲里繁会長が今度は息子を自身以来のチャンピオンに導いた。そして今、その仲里周磨に胸を借りながら、力をつけてきた砂川にチャンピオンの夢を託すのが中真茂会長の息子。連綿と続く歴史を感じる。2人はボクシング王国・沖縄の礎を築いた金城眞吉監督の親子2代にわたる教え子でもあった。中真光石会長は言う。

「東京と比べたら環境はよくないかもしれないですけど、ハングリー精神で」

琉豊BS 與那城会長(左)とニューサンダー照屋

 砂川のホール初勝利をサブセコンドとしてサポートしたのは琉豊ボクシングスタジオの與那城信一会長だった。翌3月19日、35歳のベテラン・伊集盛尚は大久祐哉(金子)に7回TKOで敗れはしたものの、2回に右で左目上を切り裂き、無敗の日本フェザー級3位に冷や汗をかかせた。

 今週末4月13日にはニューサンダー照屋(28歳)とともに大阪で日本S・フェザー級4位、福井貫太(石田)とのランク入りをかけた戦いに臨む。照屋は昨年7月11日、後楽園ホールで41歳の大ベテラン、元日本王者の岡田誠一(大橋)を判定で下す金星で3年ぶりの勝利を挙げた。

 その與那城会長が今、期待をかけているのが具志堅日向(22歳)。アマチュア歴のある評判のいいサウスポーで、昨年12月、仲里の初防衛戦と同じリングで初の6回戦に初回TKO勝ち。今のところ3戦(3勝2KO)すべてを沖縄で戦っているが、「チャンスがあれば、東京で勝負させたい」と話していた。 

9日、長嶺竜久(右)は山口仁也と勝負の一戦

 今日9日の後楽園ホールでは仲里周磨が6年半前の雪辱もかけ、実力者・三代大訓(横浜光)との大一番に臨むが、同じリングで日本フライ級4位の長嶺竜久(平仲ボクシングスクール、26歳)も勝負の一戦を迎える。対戦相手は日本S・フライ級8位のサウスポーで4戦全勝2KOの山口仁也(三迫)。勝てばタイトル挑戦も視野に入ってくる。

 今や全国大会に選手を送り出すようになった那覇工業高にボクシング部を立ち上げたのが長嶺だったが、当時はただ「護身になれば」という気持ちだったそうでアマ戦績は1戦1敗のみ。が、卒業後に仕事に就くも「何の目標もなく、物足りない毎日」を送るうちに「本腰を入れてやってみよう」と一念発起したのだという。

 ランク入りを決めたのは昨年5月。札幌で大保龍斗(横浜さくら)に6回判定で競り勝った。スイッチも駆使する8勝6KO(2敗)のイキのいい強打者だが、ここ2戦は判定勝ち。今回は「華のあるKO」を誓い、初の聖地で「ファンを増やしたい」と意気込む。

 サウスポー対策では、沖縄のジムから初の世界王者となった平仲信明会長の息子で、今回の東京遠征もサポートするアマチュアボクサーの平仲信裕が一役買った。姫路のRSTジムで平仲の芦屋大の後輩・田井宜広、小田切駿平と毎日8ラウンドのスパーリングを1週間、集中的に行い、長嶺は「自信になったし、心身ともに鍛えられた」と胸を張る。アマ出身でテクニックがある山口も気が強く、激闘の予感がする。

昨年12月、神戸で日本王座奪取の川満を平仲信裕(右)が祝福

 昨年は沖縄にゆかりのある“日本チャンピオン”が仲里周磨を含めて3人誕生した年でもあった。11月には平仲信裕がアマの全日本選手権をL・ミドル級で初制覇。12月には神戸で川満俊輝(三迫)が日本L・フライ級王座を奪取し、宮古島出身で初の日本王者となった。

 近年の沖縄を盛り上げたのは、間違いなく比嘉大吾(志成)だった。2017年にフライ級で世界王者になった当時は沖縄のボクシングジムに子どもたちが増えたと聞いた。

 その新時代の旗手たる比嘉もバンタム級で再出発後はやや精彩を欠いていたが、昨年はタイの世界ランカー2人を豪快に倒し、復活の兆しを見せている。“強い沖縄”の復活はなるか、という観点からも9日の後楽園ホールに注目である。(船橋真二郎)

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